第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
しばらくしてからペトラがぽつりとつぶやいた。
「……好いているだなんて、兵長らしいね」
「そうかな…」
「うん。いきなり愛してると言われても、なんかひくよね」
ペトラはマヤの部屋を相変わらず埋め尽くしている白い薔薇を見渡しながらつづけた。
「レイさんは愛してるって言ってたっけ?」
「ううん」
「そっか、そうだよね。愛してるっていうのはつきあって相当時間が経ってから芽生える感情なのかなぁ?」
「……どうだろ?」
首をかしげるペトラとマヤ。
「わかんないや。でもマヤはそのうちすぐに、わかるようになるんだろうな。なんかちょっと憎たらしい」
冗談っぽくマヤをキッと睨んでペトラは。
「あぁあ~! 私も彼氏、欲しいなぁ!」
「ペトラなら、その気になればすぐにできるよ」
「……そうか?」
「……そうよ」
「どこに彼氏が転がってるっていうのよ」
マヤの脳裏にはペトラと同じくらい大事な友人の顔が浮かぶ。
「オルオ…」
“オルオとか” と言いかけたが、ペトラの声の方がはるかに大きくて素早くマヤの声を打ち消した。
「オルオは絶対になしだからね!」
「絶対になしって…」
マヤは苦笑いしながら。
「本当の本当に絶対になし?」
「当たり前でしょう! 大体オルオの方だって絶対なしだって思ってるって!」
「いや、それはわからないんじゃない?」
「わかるよ! マヤはさ、なんか前々から私とオルオが幼馴染みだからって、妙にくっつけたがらない?」
「えっ! そんなことはないよ」
「いや、あるね。いつだったかストレートに “オルオのこと好き?” って訊いてきたじゃん」
「あはは…、そうだったっけ?」
……オルオに頼まれて探りを入れたときのことだ。
「そうだよ! 確かそのときも言ったと思うけど、オムツ姿を知ってるんだから問題外だからね!」
「うん、わかったよ」
……オルオ、ごめん。また推せなかった。
マヤが心の中で、オルオに謝っていると。
「でもまぁ…、いいやつだとは最近ちょっと思うけどね」
「えっ! そうなの?」
「あくまでもちょっとだけだよ、ちょっとだけ! 蟻の脳みそくらいちょっと!」