第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
そしてマヤはそんな日の最後の締めくくりに、親友のペトラにリヴァイとのあいだに起こった出来事をどこまで話せばいいのかという問題に直面している。
樫の木に登って泣いていたら兵長がやってきて、結婚するな、俺と一緒にいろと腕を広げたから、そのたくましい胸に飛びこんだなんて、とてもではないが恥ずかしくて話せやしない。
……やっぱり具体的なことは言えない。
だってそうよね?
この先もしかしたら…。
つきあうってことは、胸に飛びこんだり手をつなぐよりももっと先のことだってあるかもしれない。
それを全部逐一報告する訳にはいかないもの…。
……ペトラ、ごめん。許してね。
「……兵長に話したんだ。レイさんと結婚するつもりだって。そうしたら…」
「そうしたら!?」
目を輝かせて身を乗り出してくるペトラ。
「レイさんとは結婚するな、俺のそばにいろって言ってくれて…、その…、つきあうことに…」
木の上にいたことも、言葉の数々も、翔んで抱きしめられたことも、全部省略したけれど。それでも恥ずかしくて死んでしまいそうだ。
「そっか~! 俺のそばにいろかぁ…。良かったね、マヤ!」
ペトラはがっしりと両手をつかんできた。
「ねぇ、それだけ?」
「えっ」
「ほら、好きだとか愛してるとかは言われなかったの?」
「………」
真っ赤になってうつむいているマヤ。
ペトラは握りしめている両手にぎゅっと力をこめた。
「教えて…?」
「……と言われたよ」
声が小さくてペトラに届かない。
「えっ、何? 聞こえなかった」
「好いていると言われた…」
「うわ~!」
あまりの大声にマヤが顔を上げると、ペトラも真っ赤になっている。
「なんか私が言われた気分になっちゃった!」
まだペトラはマヤの両手を自身の両手ですっぽりと包みこんでいる。
「私… 嬉しい。大好きなマヤと兵長がつきあうなんて…。そうなればいいなぁって思ってたけど、本当にそうなるなんて夢のようだよ。おめでとう!」
ペトラの心からの気持ちが握られた手から伝わってきて、マヤもぎゅっと握り返した。
「ありがとう、ペトラ」
「マヤ、幸せになってね」
「うん」
微笑み合う二人のきずなは、また一段と強くなった。