第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
そして明くる日。
マヤはすべてを終えて、自室でペトラと向かい合っている。
目の前にはもともと大きな薄茶色の目を、さらにこれ以上にないくらいに見開いているペトラの顔。
「えっ! プロポーズをOKする気だった?」
「うん」
「だって、そんなのありえないでしょ! マヤは兵長が好きなくせに。絶対の絶対に断るの一択だと思ってたわ」
「……兵長のことは好きだけど、色々と考えてたら私がレイさんと結婚するのが一番いいと思ったんだ」
「ふぅん…。それで見納めだと思ってヘルネに行って、前に兵長と一緒にのぼった丘にいたら兵長がやってきたと」
「うん」
ペトラは疑わしい雰囲気の目をして、マヤをじっと見ている。
「……で、結局何がどうなってつきあうことになった訳?」
「それは…」
途端にマヤは黙ってしまう。
ペトラには今まで、大体なんでも話してきた。
……でも恥ずかしくて言えないことだってあるわ…。
今日は怒涛の一日だった。
午前と午後の第一部の訓練の時間までは平常どおりに過ぎた。
だが第二部の時間になる前にレイが到着してからは、まさしく荒れ狂う波が押し寄せるように。
予定どおりに団長室で二人きりにされた。
どこか緊張した様子のレイは、初日に着こなしていた全身真っ白のいでたちだ。まさに “白薔薇の貴公子” という言葉がぴったりの見目麗しさ。
……今から思えばレイさんは、私が断ることを覚悟していたのかもしれない。
「ごめんなさい、レイさんとは結婚できません」
……そう言ったときのレイさんの顔。
やっぱりな… といった表情は、泣いているようにも笑っているようにも見えて。
「好きなやつがいるんだろう?」
「……はい」
「そいつと結婚するのか…?」
「わかりません。ただ…」
申し訳なさや気まずさ、うしろめたさなど様々な負の気持ちが入り混じってレイの顔をまともに見れずにいたマヤは、ここで初めて顔を上げた。
そして美しく誰をも魅了する翡翠色のレイの瞳をまっすぐに見つめて言いきった。
「その人とこの先もずっと一緒にいたいと想うから」