第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
「おい、ガキじゃあるまいし勝手に頼んでんじゃねぇ」
リヴァイがエルヴィンに文句をつけたが。
「はは、いいじゃないか。それにマヤにとって私は “お菓子のおじさん” だからね。おじさんからしたら若い二人のことは気にかかるものさ」
おだやかに笑うエルヴィンだったが、ハンジが突っこんだ。
「確かにそんなことを言うエルヴィンは、完全無欠なおっさん臭がするね!」
「おっさんはひどいな」
「あはは」
なごやかな空気の団長室。
エルヴィンはもう一度、マヤに笑いかける。
「リヴァイを生かすも殺すも君次第だ。頼んだよ」
「……はい」
エルヴィンの瞳には、先ほど垣間見えた優しい碧に加えて確固たる信頼の碧の光も輝いていた。
ただの甘い色恋沙汰だけではない “頼む” をひしひしと感じる。
「よし。では… 解散」
エルヴィンの一声で皆が団長室を出ていく。
ラドクリフはリヴァイとマヤの肩をぽんぽんと叩いて白い歯を見せてから、一番に出ていった。きっとサフランを植えた花壇に戻るのだろう。
ラドクリフの次に出ていったハンジは、自らを戒めるかのように両手で口を押さえながら、それでもぶつぶつとつぶやく声が漏れ聞こえる。
「リヴァイとマヤがつきあってるって言っちゃ駄目だ。言いふらしちゃ駄目だ。言いたい! でも言えない! くーっ! 私はこのジレンマと戦わなければならない!」
どうやら調査兵団全体に噂が広まるのは時間の問題らしい。
そしてリヴァイとマヤ。
リヴァイは何か言いたげにエルヴィンをしばらく見ていたが、結局はその切れ長の目を伏せて背を向けた。
「行くぞ」
マヤは想いをこめてエルヴィンに深々とお辞儀をすると、すでに扉に向かって歩いているリヴァイのあとを行く。
ぱたんと扉が閉まる。
残ったのはミケ。
「……収まるところに収まったな。すべては想定どおりか?」
「そうだと言いたいところだが…」
エルヴィンは、にやりと笑みを浮かべる。
「私は最初から “未来は不確定だ” と言っているよ。どんなことだって起こり得るのが世の常だからな。ただ気分はいい」
「……は? 気分…?」
ミケはエルヴィンの言葉に首をかしげた。