第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
とうとうリヴァイの堪忍袋の緒が切れた。
「おい…。言いたいことがあるなら俺に言え。ハンジ、マヤにかまうんじゃねぇ。ラドクリフはその手を離せ!」
「おぉぉ! 早速リヴァイが独占欲を丸出しに!」
ハンジの鼻息が荒い。
「本当だな、ハンジ!」
ラドクリフはマヤの手を離すどころか、ますます興奮してぶんぶん振りまわしている。
「お前ら、いい加減にしやがれ!」
リヴァイの怒りが頂点に達したところで、団長室の混乱に幕を引いたのはエルヴィンだった。
「そろそろ、いいかな」
そのひとことで全員がエルヴィンに注目した。
「リヴァイ、明日の同席は遠慮してもらおう。それでなくともマヤはプロポーズを断るんだ。これ以上レイモンド卿の不興を買いたくはない」
「……これ以上?」
ハンジが鋭く訊き返す。
「あぁ」
エルヴィンは机上の封書を指でつまむと。
「この手紙によると昨日リヴァイはレイモンド卿の宿を突撃したらしい」
「え~、そうなんだ。何なに? レイモンド卿に “マヤはお前には渡さない” とか言いに行ったのかい?」
「………」
「無視しないで教えてよ~! リヴァイのケチ!」
ハンジは口を尖らせてぶーぶー文句を言っている。
「リヴァイが何を言ったのかはさておき、レイモンド卿は不安に思ったらしい。こうやって早便で手紙をよこしたくらいだからな。だからこれ以上は彼を刺激せずに穏便に王都に帰ってもらいたい。いいな、リヴァイ。同席はするな」
「……了解」
渋々了承するリヴァイ。
「リヴァイとマヤのことは不必要にからかうな。この先、自然と二人の関係は兵団の皆が知ることになるだろうが、あくまでも自然な流れに任せるように。間違っても吹聴して歩くなんてことがないよう特にハンジは気をつけろ」
「……ちぇっ、わかったよ」
不服そうだが一応ハンジは了承した。
「それからマヤ」
「はい…!」
名指しされるとは思ってもみなかったマヤは声が裏返ってしまった。
「リヴァイをよろしく頼むよ」
「……え?」
まさかそんなことを言われるとは。
驚いてまじまじとエルヴィンの顔を見返すと、そこには優しい碧の瞳が揺れていた。