第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
気づけばハンジが顔を覗きこんできている。
「あっ、ちょっと考え事をしていて…」
「私がリヴァイのアレなところを並べ立てたから心配になってきたかな?」
ハンジは再び、マヤの肩をバシバシと叩いた。
「大丈夫! ちょっとアレかもしれないし、つきあったら大変そうだけど、リヴァイほど仲間想いの熱いやつもこれまた他にいないんだから!」
「あの…、アレってなんですか?」
「アレはアレだよ、ちょっと残念っていうかアレな感じのアレだね」
「……はぁ…」
……兵長に残念なところなんか、ひとつもないけど。
そう思ったが言えるはずもなく。
「とにかくリヴァイはいいやつさ! つきあうのは大変だとは思うけど、マヤなら大丈夫。頑張るんだよ!」
綺麗に話をまとめたかに見えたが、最後に余計なひとことをつけ加えるハンジ。
「……まぁ私は、リヴァイとつきあうのは絶対に無理だけどね!」
「ふざけるな! こっちこそごめんだ」
「おっ、気が合うじゃないか」
終始ふざけた態度のハンジにリヴァイの苛立ちがMAX状態になったところへ、団長室の扉がバーンとひらいた。
皆が振り返ると、息を切らしたラドクリフの丸い顔が。
「遅くなった! すまん、サフランの球根の植えつけに手間取って…。あれ?」
部屋にはエルヴィン以外にリヴァイ、ミケ、ハンジ、マヤと、役者が勢揃いしていることに気づく。
「あぁぁ、すっかり忘れてた。明日だったか? レイモンド卿にマヤが返事をするのは…」
例のごとく花の手入れに夢中でマヤとレイモンド卿の件を今の今まで忘れていたというラドクリフだったが、心配そうな顔をしてマヤに声をかけた。
「マヤ、もう決めたのか? 今さら言うのも手遅れかもしれないが、俺はお前にはいつまでも調査兵団にいてほしいけどな…」
「あの…、私…」
返事をしかけたマヤを片手で制してラドクリフは悲しげにつづける。
「いや、いいんだ。俺の独り言は忘れてくれ。花にも優しいマヤのことだ。貴族と結婚しても絶対うまくやっていけると思うぜ。花のことを一緒に話せるやつがいなくなるのは淋しいが、こればかりは仕方がないもんな…」