第13章 さやかな月の夜に
「ケッ!」
オルオとマヤの二人は森から出て、立体機動装置を外している。
「だから2秒にしようって言ったのに…。なんなら1秒でもいいのよ?」
「お前、兵長が後ろから追いかけてきたら怖いって言ってなかったっけ?」
また敗北という結果に、オルオは不満そうだ。
「だって…。オルオは兵長じゃないじゃない」
「ケッ!」
また悪態をつきながら、外した立体機動装置をよこせとオルオは手を伸ばした。
「オルオ兵長! 今日はペトラのこともあるし、片づけるの一緒に行きます!」
茶目っ気たっぷりに笑いながら先を行くマヤを追いながら、オルオは照れた。
「よせやい! オルオ兵長だなんグアッ… ガリッ! 」
「兵長! 噛んでますよ」
「うるせー!」
「ふふ」
マヤが笑いながら振り向くと、オルオが血まみれになりながらも笑い返していた。
「ねぇ」
倉庫に向かって歩きながら、マヤは徐々に高くなっている太陽を見上げた。
「あぁん?」
疲れが出たのか、大欠伸をしながらのオルオの返事は間が抜けている。
「壁外調査… 来るよ」
オルオの息遣いが一瞬止まった。
「……そうか」
「うん。多分今日に決まるって分隊長が言ってた」
「なーにまた、巨人から逃げて逃げて逃げて殺して逃げて殺しまくるだけさ!」
「あはっ、なんだか逃げてが多い気がするけど?」
「当たり前だろ。逃げてなんぼなんだよ!」
「そうだね」
倉庫の前までやってきた二人は、扉を開け中に入った。
立体機動装置を片づけながら、オルオがこうつぶやくのをマヤは聞き逃さなかった。
「逃げて逃げて逃げて守って逃げて…」
倉庫を出るとマヤは、オルオの言葉をそっと繰り返した。
「逃げて逃げて逃げて… 守って… 逃げて…」
思わずマヤを見るオルオに、微笑む。
「オルオ、ペトラを守ってね。お願い」
「あぁ、あいつは俺が守るよ」
「うん」
二人の頭上には、すでに空高く昇った太陽の射す光が燦然と輝いていた。