第27章 翔ぶ
故郷クロルバの丘に似ているヘルネの丘。
故郷と同様に足を運び、自由に羽ばたく鳶と心を通わせた。
今、この丘に名前がついた。
“夕陽の丘”
……兵長にはそのままだって言われたけれど、夕陽の丘しか考えられないわ。
だってここは…。
一人になって想いにふけるときは、いつもこの丘の樫に登った。
そしてあの日マヤを見初めた。
夕陽に染まるマヤの頬に恋をした丘。
二人の想いが幾度となく交差し、結ばれた丘。
“二人だけの特別な名前が欲しい”
……クッ、可愛いことを言いやがる。
マヤが嬉しそうに口にした名前はなんの工夫もねぇものだったが、それでいいじゃねぇか。
なぜならここは…。
誰がなんと言おうとまぎれもなく俺たちの、私たちの、“夕陽の丘” なのだから…!
ようやく通じた互いの熱い想い。
完全に陽が落ちても、夏の残照はまだまだ明るい。西の暮れ空に輝く一番星を指さしたり、道端の桔梗の花を愛でたりしながら進む兵舎への帰り道は、リヴァイとマヤの二人だけの時間、二人だけの世界。幸せな気持ちに満ちあふれていた。
……このままずっと兵長と二人で、この美しい世界の空や星や花を眺めて、微笑み合って生きていけたらいいのに。他には何もいらないのに。
そう心の底から願う一方で、わかっている… 胸が締めつけられるほどに。
この世界は美しいだけではない。壁の外はあの恐ろしい巨人が跋扈して人類を喰らう残酷な世界。
……戦わなければ。
歩調を合わせて隣を歩いてくれているリヴァイの端正な横顔を見ながら、マヤは強く想う。
……兵長と力を合わせて。調査兵団のみんなと心をひとつにして。
それが調査兵であるリヴァイ兵長と私の生きる道。