第27章 翔ぶ
「……この丘だ」
どこか苦しげな低い声は少し掠れて。
「この丘…?」
「あぁ…。マリウスが死んで…、故郷に帰ったあとにここに来ていただろう?」
「はい…。どうしてそれを?」
目を丸くして驚いているマヤを優しく見つめたあとにリヴァイは、樫の木の幹に刻まれている文字に視線をやる。
つられてマヤも、マリウスが刻んだ自身の名前を。
「あのとき俺はここにいたんだ」
「そうなんですか? 気づかなかった…」
「あぁ、そうだろうな。俺はな…」
リヴァイは上の樫の枝を見る。
「木の上にいた」
「あぁ!」
マヤはリヴァイが木から落ちてきたときのことを思い出す。
「よく木の上にいるんですね。この前も落ちてきたし…」
「あれは落ちたんじゃねぇって言っただろうが」
「ふふ、そうでしたね」
腕の中で悪戯っぽく笑うマヤがまぶしい。
「あの日、見たんだ。幹に手を当て泣いていたマヤを。敬礼をした姿が忘れられなくて、お前が丘を下りたあとにすぐに幹を見たら… マヤと刻まれていた」
また幹の文字を見つめるリヴァイ。マヤが言い添える。
「……マリウスが刻みました」
「あぁ、そうだろうな。ここで、マリウスとマヤが何を約束したのか、どんな誓いを立てたのかは知らねぇが、あの日から俺はお前のことが気になって仕方なくなったんだ」
「そうだったんですか…」
そう言われれば、マヤは幾つか思い当たった。
あの日より急にリヴァイとの接点が増えていったことを。
ペトラが突然 “兵長にマヤとマリウスがつきあってるのかと訊かれた!” と言っていたこと。
食堂で理由もわからず向かいに座ってきたこと。
立体機動訓練の森で追いつめられたこと。
ミケ分隊長との執務の休憩の時間に現れて、いつしか一緒に紅茶を飲むようになったこと。
「マヤのことが気になって、なんでもいいから知りたかったんだと思う」
「兵長、私もです…。私もあの日のあとから急に兵長と関わることが増えていって、どんどん惹かれていきました…」