第13章 さやかな月の夜に
マヤもオルオの顔を真っ向から見つめ返し、にっこりと笑う。
「こちらこそありがとう。ペトラの笑顔はオルオのおかげだもん、すごく嬉しい」
しばらく二人は元気になったペトラの様子を喜び合っていたが、オルオが幹に預けていた身体を起こした。
「じゃあ、そろそろ行くか」
「うん!」
右肩をぐるぐるとまわしながら、オルオは笑う。
「でもよ… 馬鹿相手に八つ当たりしろって酷いアドバイスだよな!」
「違う~! オルオの顔を見たら笑えるだろうからオルオを見とけばって言ったのよ!」
「……それって、あんま変わらんよな…」
「あはっ、そう?」
「そうだよ!」
オルオは今度は左肩をまわし始めた。
「ちょっと時間食っちまったし、ショートだな?」
「そうだね」
準備運動を終えたオルオが、よしっ!と気合を入れる。
「今日こそは…!」
「オルオ。もういい加減2秒にしようよ」
マヤの提案を、オルオは撥ねつけた。
「冗談じゃない! 俺はな、今日は自信があるんだ」
「何? どういうこと?」
「こないだお前、兵長に負けただろ?」
「うん」
「だから俺は兵長だ!」
「……はい?」
「だから俺は今、兵長なの!」
マヤにはペトラの、オルオの馬鹿と言う声がはっきりと聞こえた。
「……やっぱり馬鹿なの…?」
「ハッ! 今のうちに馬鹿にしとけよ! 俺は今兵長だと自分に暗示をかけた。だから兵長になってお前を追う。そして必ず勝ってみせる!」
「………」
「いつでもいいぜ!」
「了解!」
マヤは叫ぶと同時に、アンカーを射出して飛んだ。
「1… 2… 3…」
マヤが森の奥に消えたと同時に、3秒数えたオルオがあとを追う。
……カンッ! パシュッ! ……カンッ! パシュッ!
立体機動装置で飛ぶ音が、森に響き渡る。
「俺は兵長だぁぁぁ!」
オルオはそう叫ぶと同時に、ガスを思いきり噴かした。
……カンッ! パシュゥゥゥゥゥッ!