第27章 翔ぶ
「……皆、志なかばで散りました。でもその尊くて強い想いは仲間が引き継ぐ。そうですよね?」
「あぁ、そうだな…」
「巨人からすれば私たちひとりひとりはあまりにも小さくて、ひとしずくの雨水のようにちっぽけな存在なのかもしれません。でもその一滴から小川となってやがて大河になります。大河は一滴から始まる。皆の想いをつなげて、いつかは巨人をものみこむ大河になるまで…、その想いをつないでいきたい。そのために私ができることは何かと考えたときに、今レイさんのプロポーズを受ければ長きにわたって兵団に資金援助がされる。……となれば、迷うことなんかないんです。犠牲なんかじゃありません。これを犠牲と言えば、死んでいった仲間が怒りますよ? だって私は命を失うんじゃない、王都でのうのうと生きるんですから」
そう言いきったマヤの琥珀色の瞳からは、ひとしずくの涙がぽろりと落ちた。
「………」
マヤの言葉を聞き、頬を伝う涙を見たときリヴァイは、レイの叫びを思い出した。
“惚れた女に生きていてほしい”
そうだ、惚れた女には生きていてほしい。
……レイモンド卿の言葉を聞いたときに確かに俺もそう思った。
だが俺たち調査兵には許されねぇとも思った。
今まで無念の思いで散っていった数多くの仲間たち。
好きな女には生きていてほしいなんて、あいつらに顔向けができねぇ気がした。
だが、そうじゃねぇ。
たとえ生きているとしても、心が自由じゃなきゃ生きているとはいえねぇ。それだったら自由な精神のまま死んだ方がマシじゃねぇのか。
「マヤ、王都でのうのうと生きると言ったが…、それは生きているとは言えないんじゃねぇか?」
「……え?」
「そうやって泣いて、行きたくもねぇ王都に行って、嫁いで生きていく? お前は、お前の心を殺すつもりなのか…」
「……心を殺す…」
リヴァイの言葉は、マヤの胸に突き刺さった。
……レイさんに嫁いで王都で暮らすことは、私の心を殺すこと?
動揺しているマヤに、リヴァイは諭すように静かな声でつづけた。
「マヤ、故郷の丘で金髪の調査兵と出会って自由に憧れたんだろう? 自由について考えて、自由のために戦いたいと思うようになって。そのお前の心が自由でなくてどうするんだ」