第27章 翔ぶ
「私が結婚すれば調査兵団はもう、資金繰りに悩まなくて済みます。壁外調査だって何回でも行けるし、ハンジさんは好きなだけ研究ができるわ。アウグスト先生は看護師さんを雇えるし、食堂のメニューだってきっと毎日豪華になります。どう考えても私が結婚する方がいいに決まってます。それに…」
マヤはレイの翡翠色の美しい瞳を思い浮かべた。
「レイさんは素敵な人です。私なんかにはもったいない…。そんな人が結婚してくれと言うなんてすごいことです。喜んでお受けしないと…」
「じゃあ…、なぜ泣いている?」
聞こえてきたリヴァイの声は、慈しむように静かだった。
「……泣いてなんかいません」
「いや、泣いている。ずっと泣いていたし、今も泣いているじゃねぇか」
……泣いていたところを見られたくないから兵長の方を見ないようにしていたのに、どうして?
「いい加減なことを言わないでください」
「いい加減じゃねぇ。今もお前の顔は手に取るように見える。夕陽に照らされた顔には涙が光っているじゃねぇか」
「………」
慌てて涙をぬぐう仕草をしてしまう。
「マヤ、何もお前が犠牲になることはねぇんだ。兵団の資金のことなんか考えるな」
「……わかってます! 団長にも分隊長にもそう言われました。レイさんが出した条件のことは考えなくてもいいって。でも、そんなの無理です。私は曲がりなりにも調査兵団の一員です。これまで何人もの死を見てきました。先輩も同期も後輩も…。私より優秀な人も次々と殺されました。マリウスだって…。知ってますか? マリウスは訓練兵団を首席で卒業したんです。なのに…。私が生き残って…」
マヤはそこまで話すと、リヴァイの方に顔を向けた。
……もう逃げない。しっかりと兵長の目を見て、決意を伝えるんだ。