第27章 翔ぶ
……どう答えたらいいのかしら。
プロポーズを受け入れると決めたことを話すの?
決断したくせに、兵長… あなたを想って泣いていましたとでも言うつもり?
いいえ、そんなことはできないわ。
最後に兵長を困らせたくはない。
ただ明日にプロポーズの返事をすることは、いずれ知られてしまう。隠す必要はない。
……むしろきちんと報告するべきだから。
「……明日、レイさんにプロポーズの返事をしなければならないんです。分隊長が執務を休んで、ゆっくりと好きなように過ごしていいと言われたのでヘルネに来ました」
状況を説明していると、まるで言い訳をしている気分になってくる。
「もうここには来ないと思うから、好きだったお店や景色を憶えておこうと思って。いつでも思い出せるように…」
「もうここには来ない…?」
「はい」
マヤは決めた、遠回しな言い方はやめると。
「プロポーズを受け入れることにしました。レイさんと結婚します。王都に行ったら、もうここには来れないでしょう?」
……これは報告なんだ。
上司である兵長への報告。
だから感情はこめなくていい。
それなのに、どうして声が震えるの?
「だから思い出作りに来たんです」
……今のはちゃんと言えたはず。
「……結婚するのか」
低い兵長の声。
「お前はそれでいいのか…?」
「もちろんです!」
努めて明るく答えたつもりだ。声だって震えていないはず。
……もう決めたんだから。迷いはないんだから。
マヤは動揺している心を見透かされたくなくて、じっと見上げてきているリヴァイの目を見ることができない。
だから先ほどからずっと、遠くの壁に落ちる夕陽に顔を向けていた。