第27章 翔ぶ
ヘルネに到着した。マヤの行きそうな店を片っ端から覗いていく。カフェに雑貨店、衣料品店に帽子屋、鞄屋、靴屋、アクセサリーショップ。花屋、本屋、パン屋にケーキ屋。
……いねぇ。
若い女の店員と客しかいない下着屋にまで恥を忍んで飛びこんでみたが、どこにもいねぇ。
……もう、あそこしか残ってねぇ。
やってきたのは “カサブランカ” の前。ひときわ目立つ白亜の壁と扉をひと睨みすると、迷わず中へ。
ティーカップを展示し、茶葉を販売している店舗部分には誰もいないが、それは想定済み。
いるとすれば、奥の喫茶スペースに違いねぇ。
客が入店した気配を感知して、いつも奥から出てくる店主のリックより先に、奥へ通じる扉から入っていく。
ちょうど出てこようとしていたリックと鉢合わせた。
「……兵士長!」
リックは驚いたようだったが、すぐに平静を装い頭を下げる。
「いらっしゃいませ…」
「爺さん、マヤが来なかったか?」
「マヤ様? いえ、いらっしゃってはいませんが…」
「……そうか。ならいいんだ、邪魔したな」
「……兵士長!」
呆気にとられているリックを残して店を出る。
……どこにいるんだ、マヤ!
もしかして、ここにはいねぇのか?
馬が残されていたからといってヘルネに行ったと決めつけたのは早計だったかもしれねぇ。
……クソ! ミケを連れてくればよかったか。
そうすればマヤがこの街にいるかどうかがわかるのに。
焦りと苛立ちがピークに達したそのとき、吹いてきた風に前髪がそよいだ。
その刹那よみがえった、甘く切ない記憶。
俺の前髪にふれたマヤの華奢な指。“すごく綺麗です…” とささやいた熱っぽいマヤの声。
ひらめいたマヤの居場所。
……馬鹿か、俺は。
店なんかじゃねぇ。あの丘に決まってるだろうが!