第27章 翔ぶ
ミケの執務室を出て、階段を駆け下り真っ先に厩舎へ向かう。
もし本当にミケの言うとおりにマヤがトロスト区へ行ったならば、必ず馬に乗っていくはずだ。
アルテミスがいるかどうかでマヤの行先の予想がつく。
厩舎が見えてきた。
アルテミスの馬房は…。
俺の馬オリオンのいる厩舎の三棟隣に立つ厩舎へ入っていくと、ヘングストの爺さんが夕飼い… 夕方に馬たちにやる飼い葉を配っているところだった。
「おやリヴァイ兵長、どうなさった?」
「アルテミスはいるか?」
「……おるが? いや、おるはずじゃが…? ちょっと見てくるわい」
リヴァイのただならぬ様子にヘングストは、アルテミスが馬房にいるかどうか自信がなくなってくる。
急いで奥の馬房に確認しにいけば、アルテミスはブブブブと機嫌良く鼻を鳴らしていた。
「やっぱりおりますわい。そもそもマヤはここに来ておらんしのぅ」
「そうか」
「マヤが何か?」
「いや、来てないならいいんだ」
……アルテミスがいるのなら、トロスト区じゃねぇ。
ヘルネか?
厩舎を出ていく俺に、ヘングストの爺さんが訊いてくる。
「オリオンに会っていかないんで?」
「あぁ。また来る」
通用門の件で世話になった爺さんには正直に事情を話す義理がある気がしたが、今はとにかく時間がねぇ。
一体なにがそうさせたかはわからねぇが、このときの俺は、とにかくマヤの顔を見るまでは落ち着かなく、焦る気持ちが先走っていた。
厩舎を出て、兵舎を離れ、ヘルネへ行く。
歩いて30分ほどのヘルネなら、急げば10分もかからねぇ。
マヤに早く逢いたい。ずっとまともに顔を見ていない。
つのる想いと呼応するように心臓は高鳴っていく。
その鼓動に追い立てられるように足早に歩いていた俺は、ヘルネへつづく道の景色が勢いよく流れていくことに気がついた。
いつしか俺は、走っていたのだった。
……マヤはヘルネにいる。必ず見つけてやる…!
鼓動と呼吸音と駆ける足音に、後ろへ後ろへと流れていく道端の緑と青い桔梗の花が、俺の想いを加速させていく気がした。