第27章 翔ぶ
「おい、今すぐマヤの居場所を教えろ」
「知らないと言ったはずだが?」
「そうじゃねぇ」
俺はつかつかとミケの背後まで行く。
普段は見上げないといけねぇミケの首根っこも、やつが椅子に座っているとよく見える。がしっと掴んで椅子から引きずりおろした。
「マヤはどこにいる? 嗅げ!」
「おい、冗談だろう…」
全く嗅ぐ気のねぇミケの顔を窓から外へ突き出した。
「これが冗談だと思うか?」
「……わかったから放せ」
放してやると、ミケはやれやれと悠長に首を振っている。
「早くしろ」
観念したかのように、やっと嗅ぎ始めた。
……スンスンスンスン…。
「……いない」
「は?」
ミケは窓から身を乗り出して各方面に顔を向けて目を閉じ、真剣に嗅いでいる。
……スンスンスンスン…。
「やっぱりいない」
「いねぇとはどういうことだ」
「敷地内にはいない。一日早いがレイモンド卿に返事をしに、トロスト区へ行ったのかもな」
「そんな必要はねぇだろうが。どのみち明日には期限が来る」
……何を馬鹿なことを言っている。
わざわざ返事をしに出向く訳ねぇだろうが。
「それはそうなんだがな…。マヤはやたら真面目なところがあるし、思い詰めたら一刻も早く自身で決着をつけようとするかもしれない」
「……決着か」
「あぁ。返事をどうするか決めたなら、それがどちらにせよ今夜は眠れないだろう。それならもう、すっきりさせるために行動するのも俺はあり得ると思う」
……果たしてそうだろうか?
マヤはそんなに気が急く方か?
だが周りの人に気を遣って、早く返事をした方が迷惑をかけずに済むと考える可能性はある気がした。
もしそうならマヤがレイモンド卿に会う前に、顔を見たい… 話がしたい。
一刻も早く。
もうここには用はねぇと出ていこうとすると。
「リヴァイ、今度酒を一杯おごれ」
振り向けば、窓枠いっぱいにミケが立っていて笑っている。
「あぁ。邪魔したな」
扉が閉まる直前に、ミケのぼやき声が聞こえた。
「……リヴァイのやつ…、人を犬扱いしやがって」