第13章 さやかな月の夜に
翌朝、マヤは身支度を終え居室を出た。
ペトラの部屋の前を通りながら、まだ夢の中ね… と彼女の寝顔を思い浮かべ我知らず微笑む。
外に一歩出ると、まだどことなく冷たい早朝の空気が頬を撫でる。
立体機動訓練の森に近づけば、チュチュンチュチュンとさえずる小鳥の声が清々しい。
マヤは森の香りを胸いっぱいに吸いこんだ。
めずらしくオルオが先に来ていた。すでに立体機動装置を装着している。
「おはよう、オルオ」
「おはよ!」
オルオに渡された立体機動装置を手早く着けながら、マヤは訊く。
「今日は早いのね?」
「まぁな」
「雨が降ってくるかもね」
「おいおい…」
準備を終えたマヤはオルオを見て “お待たせ” とうなずいた。
トリガーをカチカチッと空引きして感触を確かめたあと、手近な樹にアンカーを射出した。
パシュゥゥゥッとガスを噴出してワイヤーを巻き取ったオルオとマヤは、時を同じくして樹上へその身を移す。
今にも飛ばんとばかりにコースの先を見据えているマヤの肩を、オルオはぽんと叩いた。
振り返るマヤに、ちょっといいか? と樹の幹で休むようにうながす。
言われるまま幹に体を預けたマヤは、オルオに気遣わしげな顔を向けた。
「……何?」
オルオは幹にもたれかかり腕を組みながら、静かに話し始めた。
「俺… あの夜、聞いたんだ」
「あ…、兵長の…?」
「うん。途中からだけどよ… ペトラのことを部下のひとりだからってとこらへんから」
「うん…」
「でよ、俺… そのあとすぐにわかったんだ。ペトラも聞いちまったこと」
オルオは鼻をかきながらつけ加えた。
「あいつのことずっと見てるからさ、顔を見たら何を考えてるかなんてわかるんだ…」
「うん」
「これはヤバいことになったなって思ってたんだけどよ、次の日からやたらあいつが絡んできてよ…。最初は俺に当たり散らしてるだけに見えたけど、段々と笑う回数が増えていって」
オルオはマヤの顔を正面から見ると、ニヤッと笑った。
「そうだろうなとは思ってたけど、マヤのアドバイスだったんだな。ありがとうな」