第27章 翔ぶ
“そうなのか?” という想いをこめてエルヴィンを見れば、静かに口元に笑みを浮かべている。
……あぁ、ハンジは正解を出しているのか…。
だからといって “あぁそうか、わかった” とこの部屋を飛び出して、マヤに何を言えと?
大体マヤの笑顔は君のものにはならないだなんて…、別に俺は、俺のものにしようとは思っちゃいねぇ。
……いや思っていたが、今となっては…。
「リヴァイ」
俺の思考をエルヴィンのバリトンボイスがぶったぎる。
「多くを語るつもりはないが、お前の信条を今一度考えろ」
「……俺の信条…」
それはいつだって、悔いが残らない方を自分で選ぶ… “悔いなき選択” をすることだ。
「……お前の心の声に耳を傾けて素直になれ、リヴァイ」
エルヴィンのその言葉が胸に響いて、俺はなぜだか自分でもわからねぇが、くるりとエルヴィンとハンジの二人に背を向けると退室すべく扉に向かった。
ハンジの声が背中を押す。
「信じてるよ、リヴァイ!」
……何が信じてるだ。何が素直になれだ。
忌々しく思っているのに、そんな気持ちとは裏腹に足は団長室を出てミケの執務室へ一直線に歩いている。
ミケの執務を手伝っているであろうマヤの顔をとりあえず見に行こう。
そこから何を言うか、何をするかは、マヤの顔を見てから考えればいい。
扉を開けると、ミケしかいねぇ。
……休憩の時間か? 紅茶でも淹れに行っているのか?
だが、マヤがいつも執務をしているソファとテーブルには人のいた形跡がない。
「どうした、リヴァイ?」
「………」
ミケに訊かれて、とっさに答えられなかった。マヤに逢いにきたとは言えない。
「マヤならいない」
俺が言わなくても、ミケには来訪理由がわかっているようだった。
「どこにいる?」
「明日の返事に備えて、ゆっくりと好きに過ごせと命じた。どこにいるかは知らん」
「そうか」
そのまま退室しようかと思ったが、ふと見ればミケは最大限にニヤニヤしていやがる。
そんなに俺がマヤを捜しに来たのがおかしいのかと無性に腹が立ってきて、こき使ってやろうと思い立った。