第27章 翔ぶ
懐疑的な俺など気にも留めずにエルヴィンは、その “詩” とやらを口ずさんだ。
口ずさむというのも変な話だが、実際エルヴィンの張りのある、低くてずっしりとした男らしい声が唱える一編の詩は、音楽のように俺の耳に心地良く響いた。
「夜が明けるから戦うのではない。戦うから人類の夜が明ける。立ち上がらない者に夜明けの星を目に焼きつける資格はない」
「………」
その詩の精神に少なからず感銘を受け、心の中でもう一度 “夜明けの星を目に焼きつける資格はない” と繰り返しているところへ、ハンジが目を輝かせてエルヴィンの机に突進するのが見えた。
「いいね! 感激したよ。今のリヴァイにぴったりじゃないか! さすがエルヴィン!」
「おい、ちょっと待てクソメガネ。いい詩だとは思うが、俺にぴったりとはどういう意味だ」
確かにいい詩だ。
日々、巨人との戦いに明け暮れる調査兵団にうってつけだ。だが今の俺にぴったりとは一体…?
「夜が明けるのを待ってから戦っても駄目なんだよ。他人の選択をそのまま受け入れて、為す術もなく立ち尽くすだけでは世界は変わらない。自分自身で考えて、悩んで、苦しんで、立ち上がるんだ。そうやって選択して実行した者だけが夜明けの星の輝きをその目に映すことができる。初めて世界を変えることができる。そういう意味だよ、エルヴィンのポエムは!」
“何がポエムだ” と思いつつ。
「あぁ、それは俺も大体のところはわかっている。巨人と戦う俺たちの境遇にふさわしい詩だな」
「そう、戦う我々にどんぴしゃ。そして今の君にもだ、リヴァイ。レイモンド卿にもマヤにも、それぞれの選択がある。それをそのまま受け入れて指をくわえて見ているだけかい? そんなことでは夜明けの星の輝きは… マヤの笑顔は、君のものにはならない。自身の選択を信じて突き進め。エルヴィンもきっとそう思って詩人になったんだと私は思うよ」