第27章 翔ぶ
「やっとしゃべった~!」
こぶしを突き上げて喜んでいるハンジと、にやにやしているエルヴィン。
「リヴァイったら何を言っても怖い顔をして黙ってるんだもん」
口を尖らせて文句をたれていたが、急にクソ真面目な顔をする。
「余計なことを言わないのは君の長所だと思うけど、言わないと伝わらないときもある。マヤだって悩みに悩んでレイモンド卿のプロポーズを受け入れるだろうから、そう簡単には覆さないとは思う。エルヴィンやミケ、私はもちろんのこと、親友のペトラが言っても駄目だろうね。けどリヴァイなら…、リヴァイの言葉ならマヤはきっと心を動かされるはずだ…」
「おい、ちょっと待て」
止めなければ、一時間でも二時間でも熱弁をふるいそうなハンジの言葉をさえぎった。
「なぜプロポーズを受け入れる前提なんだ。それはまだ、わからないだろうが」
「そうなんだけどさ、マヤの性格を考えたら確率的には高いと思うんだ。マヤがレイモンド卿をふるんだったらそれでよし! でもそうじゃない場合を想定しておかないと。OKした途端に王都に連れ去られて挙式して屋敷の奥に幽閉されて面会謝絶、一生マヤに会えないとかになったらどうするんだ! そんなの私は耐えられない!」
自身の班員に迎え入れたいと考えているほどにお気に入りのマヤがいなくなることを想像したハンジは、両手で頭を抱えこんで悶えている。
そんなハンジに声をかけたのはエルヴィン。その声色は笑いをこらえているように思えた。
「だが研究費は、がっぽりもらえるぞ?」
「うっ」
一瞬声をのみこんだが、すぐに首をぶんぶんと振って叫んだ。
「何を言ってるんだ、エルヴィン! 研究費よりマヤがいいに決まってるじゃないか!」
「本当にそうかい?」
「本当にそうだよ、やだなぁ!」
「はは、まぁよかろう。さてリヴァイ。何も言うつもりはなかったが、ひとつだけ。お前に詩を贈ろう」
「……あ?」
……詩?
何をほざいている?
調査兵団の団長なんて因果な職務についているからか、とうとういかれちまったか。
俺はエルヴィンの正気を本気で疑った。