第27章 翔ぶ
今にも地団太を踏みそうなハンジの叫び声。
それとは正反対にエルヴィンの声は、凪いだ湖面のように落ち着いていた。
「ハンジ、私は別段何も言うことはないが」
「なんでだよ! 元はと言えばエルヴィンがレイモンド卿の条件をのんだのが発端じゃないか。さっき初めてそれを聞いたときは開いた口がふさがらなかったよ」
……それに関してはクソメガネよ、そのとおりだ。
俺が内心で、ハンジに同意していると。
「マヤがレイモンド卿と結婚すれば、調査兵団は恒久的に潤沢な資金援助を受け、最大限に活動することができるだろう。結婚しなければ今までと何も変わらず、資金難にあえぎながら戦っていくこととなる。ただしマヤという優秀な一人の兵士を失わずに済む。どちらに転んでも私はかまわないし、どちらがいいとも言う気はない」
「嘘だね!」
ハンジの鋭いひとことに、エルヴィンの太い眉がぴくりと動いた。
「嘘? それは聞き捨てならない、一体どういう意味かな?」
「マヤを失うことは戦力の喪失だと言っていたじゃないか。マヤを失えばリヴァイの士気が下がると」
「あぁ、そうだな。確かに言った」
「だろ? 思い出してくれて良かったよ。リヴァイの士気が下がって調査兵団の戦力が大幅ダウンするなら、いくら資金面でプラスになっても全然駄目なんじゃないかい? 選択肢は二つだ。一つ目は資金はうなるほどあるけど、しょんぼりして骨抜きになったリヴァイ。二つ目は相変わらずの資金難でひぃひぃ言ってるけど、マヤがいるから気力充実、しゃかりきに頑張るリヴァイ 。さぁ、エルヴィン。どっちだい? 調査兵団にとって本当に有益なのは!」
「骨抜きリヴァイより、しゃかりきリヴァイだ」
「そう、骨抜きよりしゃかりきに決まってる! いくら資金があっても骨抜き腑抜けのリヴァイじゃどうしようもないんだよ。だからリヴァイがしゃかりき千人力じゃないと…」
「おい!」
……黙って聞いていれば俺の士気だかなんだか知らねぇが、好き勝手に言いやがって!
「なんだい、リヴァイ? 血相を変えちゃって」
「誰が骨抜き腑抜けだ。お前ら、俺が何も言わないのをいいことに勝手なことをぬかしやがって!」
地を這うような俺の声が、団長室に響いた。