第27章 翔ぶ
両腕を大きく広げてハグする勢いで出迎えてくるクソメガネを無視して、エルヴィンの座る執務机の前へ直行すると、不服そうな声が追いかけてきた。
「相変わらずつれない態度だねぇ!」
うるせぇので、ちらりと視線だけくれてやる。
「おぉ怖!」
人を食ったような態度のハンジはどうでもいい。一応俺はエルヴィンに呼び出しをくらったことになっているのだ。
「……来たぞ。なんの用だ」
それまで俺とハンジのやり取りを面白そうに眺めていたエルヴィンの碧い目が、きらりと光った。
「レイモンド卿から封書が届いたんだ」
見れば、机上にある一通の手紙。
「明日がプロポーズの返事の期限なんだが…」
そこまで言って、エルヴィンはちらりと俺の顔色をうかがう。
……とっとと先を話せ。
軽い苛立ちとともにそう思ったが、恐らく顔には出ていない。よく人に言われる “なんの感情も読み取れない顔” をしているはずだ。
「この手紙によれば、明日のマヤの返事次第で即刻王都に帰還するそうだ」
「……そうか」
……マヤにふられたら、尻尾を巻いて逃げ帰る訳か。
そう解釈していた俺の耳に、正反対の言葉が飛びこんできた。
「マヤを連れて凱旋といったところだろうな」
「……は?」
「結婚を承諾してもらえたならば、そのままマヤを兵舎には返さずに王都へ連れていき、式を挙げたいと書いてある。連れ帰ってもいいかと許可を求めてきた訳ではなく、そう宣言してきた」
……兵舎には返さずに王都へ? 式を挙げる…?
理解が追いつかないところへ、ハンジのけたたましい声が覆いかぶさってくる。
「その手紙が配達されたところへ、ちょうど居合わせたんだよ私は。リヴァイとは全然顔を合わせてなかったから知らないと思うけど、ここ最近ずっとある新薬の開発に心血を注いでいてね。その研究の目処がついたからその報告がてら… そしてあわよくばもっと研究費をせしめようかと来てみたらレイモンド卿がマヤを兵舎に返さないとか言ってきてるだろう? もう驚いたのなんのって! リヴァイ、それでいいのかい?」