第13章 さやかな月の夜に
「マヤ、明日 飛ぼうぜ!」
「あぁ… うん、いいよ」
マヤはオルオに何を言われるのかと身構えたので、自主訓練の誘いに拍子抜けした。
「でも… 許可申請、出してるの?」
「あぁ… 今から俺が出しておくわ」
オルオは早速立ち上がりながら、ペトラの方を向いた。
「一応… 訊くけど、お前も来る?」
ペトラは間髪をいれずに答えた。
「眠いから嫌~!」
オルオはやれやれと両手を上げて肩をすくめた。
「じゃあ… マヤ、明日な」
立ち去るオルオに、マヤは声をかける。
「はぁい、おやすみ」
オルオが食堂を出ていったあと、マヤはペトラにあらためて話を振った。
「ペトラ、元気そうで安心したよ」
「うん、ありがとう。昔おじいちゃんが言ってたんだけど “馬鹿と鋏は使いよう” ってこのことだね!」
「またオルオを馬鹿扱いして…」
えへへ… と舌を出して笑ったペトラは、急に真面目な顔をした。
「……でもね、オルオには感謝してるんだ」
「うん」
「何も訊かずに… 何を言ってもつきあってくれてる感じがする」
「うん、オルオはそういう人だよ」
「だね」
マヤとペトラはしばらくの間しみじみとしていたが、やがてペトラは頬杖をつくと穏やかに笑った。
「でもやっぱり馬鹿で何も考えてないから… かもね」
「失礼しまーす!」
オルオは急いで仕上げた立体機動装置の使用許可申請書を手に、リヴァイ兵長の執務室を訪れた。
ノックして勢いよく扉を開けたはいいが、肝心の兵長が見当たらない。
「……あれ?」
明かりは灯してあるし、椅子も今の今まで座っていた形跡がある。
「便所かな?」
オルオは独りでぶつぶつと言いながら、使用許可申請書を机の上に置いた。
オルオが執務室を出ていってから数分後、戻ってきたリヴァイは机の上に増えている新たな書類に気づいた。
書類には見慣れた字で、使用日・使用目的・使用者が順に記されている。
そこには今一番目にしたくない名前があり、リヴァイの瞳を囚えて離さなかった。
リヴァイは眉間に皺を寄せながら、黙って書類を裏返した。