第27章 翔ぶ
「私がレイさんのプロポーズを断れば、今までと変わりのない日々が待っているわ。訓練に明け暮れて、壁外調査に出て。でももしもプロポーズを受けて結婚したら…。調査兵団はこの先ずっと資金面で悩む必要がなくなる。壁外調査にはいくらでも行けるし、団長や兵長が資金集めのために王都に行く必要もなくなる。ハンジさんは好きなだけ研究費をもらえるし、兵舎を増築したらみんな個室をもらえるかもしれないし、アウグスト先生は看護師さんを好きなだけ雇えるわ。みんなもお肉をたくさん食べられるし、どう考えても調査兵団にとって一番いいことなのよ…」
鳶は賢そうな顔をして、じっとマヤの話を聞き入っているように見える。
「そりゃ… 悩んだわよ? いくら兵団のためだと思っても、その一方でそんなものはただの驕りな気がして。でも驕りでもなんでもいい、私の行動ひとつで何かが良い方向に変わるのならそれは意味のあることなんだって。それにレイさんのことを嫌いな訳ではないし。あんなに素敵でいい人を私が断るのも変な話だわ。それこそ何を思い上がってるのって。貴族の社会に入る不安もきっとレイさんが一緒なら大丈夫だって気もするし。レイさんがもっと…、そうね… 顔を見るのも嫌なほどの悪人だったら良かったのに…とかね、そんなことまで頭に浮かんでくるし…。もうどうしたらいいかわからなくなったわ…」
「ヒョロロロ…」
「ごめんね、こんな話を聞かされても困るよね」
マヤは謝り、まっすぐ鳶を見つめた。
自身の右腕を止まり木としている立派な一羽の鳶。こげ茶色と白の艶々とした美しい羽。胸筋はたくましく、力強い鼓動が伝わってくる。
「……立派に生きてる…」
「ピー! ピッ!」
鳶は激しく鳴き、くいくいっとマヤの方へ首を突き出した。
「……調査兵団は自由のために戦っているの。人類も、鳥も、動物もみんな自由…、自由でなきゃいけないのよ。そのためには…、自由のためには、生きていることこそが何よりも大切なんだわ」