第27章 翔ぶ
右腕に感じる鳶の重み、肌に食いこむ鋭い爪。
その重さが、その痛みが、マヤに鳶の尊い生命(いのち)を感じさせてくれる。
「……初めてだね、こうして来てくれるのは」
「ピッピー!」
「このあいだは止まってくれそうになったけど、兵長がいたからね…」
今までずっと鳶とは心を通わせてきた。会話らしきやりとりもあったし、手を伸ばせば止まり木にするかのように近づいてきたこともしばしば。
前回はあと少しのところで腕に止まるのをやめて、樫の木の枝で羽を休めたのだ。その理由は、そばにリヴァイがいたから。
「ピー ヒョロロロロ…」
「今日はひとりよ。……ここに来るのはもう最後なの」
首を傾げる鳶。
「……レイさんと結婚するかどうか、随分と悩んだわ。一番に大事なことは結婚する二人の気持ちだと思うの。でも… それだけじゃないよね、結婚は…」
「ピィゥー…」
「ふふ、わかってくれる?」
右腕に大きな鳶を乗せて、あたかも会話をしているかのように話しかけていることが急に滑稽に思えてきて、マヤは笑い出した。
「あはは…、何やってるんだろう私ったら。鳥に話したって仕方ないじゃない…。あははは…」
笑い声はいつしか泣き笑いになっていく。
「ピィゥー!」
涙でにじんだマヤの瞳に映る、鳶の曇りのないつぶらな瞳。その奥を覗きこめば、確かに知性の光があり、会話は可能だと本能的に理解した。
明らかに鳶はこう言っていた。
“仕方がないことなんかない! 心ゆくまで話してみて” と。
「……聞いてくれる? 面白い話ではないけれど」
「ヒョロロロ…」
こくこくと、まるで相槌を打つように首を上下させて、鳶は喉を鳴らした。