第27章 翔ぶ
顔色が悪くなりつつあるマヤを、ちらりと一瞥してから平然とエルヴィンは。
「さらに彼はこうつづけた。“それとは別にオレ個人の名義での寄付も、このあいだの舞踏会の招待で約束した一度だけではなく、永久に継続したい。また兵舎や施設の改築だろうが増築だろうが新築だって…、なんでもいい、調査兵団の望むままに好きにやればいい。兵士たちの食事も…、もっと肉を食わせたいのなら用意しよう。武器も馬も金を出そう。すべて…、団長の思うがままにやればいい。全額保証する。だからマヤとの結婚を承諾してくれ” とね」
「………」
……何よ、それ…。
お金を払えば、私は買えるの?
マヤが不愉快な気持ちでいっぱいになったときに、扉を軽くノックする音が聞こえたと同時に誰かが入ってきた。
「……来たか」
「あぁ、今日のアレを唯一知る身としてはな…。来ずにはいられなかった」
振り向けばミケが立っている。
「分隊長…!」
自分ではそんなつもりはないのに、半分涙声になっているマヤ。
「マヤ」
ミケは余計なことは何も言わずに顔をしっかりと見てうなずくと、ソファに腰をかけた。
その様子がマヤにとっては、味方が現れたような気持ちにさせられて。
「分隊長、アレを唯一知る身… とは?」
「昼にレイモンド卿が、この団長室に来たことを知っているのは俺だけだ。リヴァイもハンジもラドクリフも知らずにいる」
「そうですか…」
……兵長は知らないんだ。
マヤは少し安心したかのような気持ちになる。
誰だって自身がモノみたいに金で売り買いされるような状況を、想いを寄せている相手に知られたくはない。
「レイモンド卿の来訪を三人には、あえて知らせなかった。ラドクリフはこの件に関しては無害だとは思うが、リヴァイとハンジはうるさいだろうからな。ミケだけは直属の上司だし、知る必要があると思って呼んだ」
エルヴィンの説明はマヤを驚かせるには充分だった。
「うるさい…?」
「あの二人が口を挟んでくると面倒だからね。マヤ、君には自身の考えにしっかりと向き合って、正しい決断を下してほしいと思っている」
そう告げてきたエルヴィンの碧い瞳が、立ちすくむマヤを射抜く。