第27章 翔ぶ

「早かったね」

兵服に着替えて団長室に報告および質問…、マヤにとっては質問、いや団長といえども “詰問” したい心情である。

そうやって勢いこんで入室してきたマヤに対してエルヴィンは、おだやかに声をかけた。

「この時間に来るということは、レイモンド卿にとっては色よい返事ではなかったということかな？」

「団長…！」

マヤの声がうわずる。

「そのことですが、レイさんから団長がプロポーズを承諾したと聞きました。本当でしょうか？」

「あぁ、そうだね」

「そんな…！ 一体どういうことですか？ 私には意味がわかりません。団長は私に結婚しろと…？」

「そうは言っていない。まぁ、落ち着きなさい」

執務机の正面に立つマヤに諭すように優しく。

「マヤが混乱するのも無理はないとは思うが…。理解できるように順を追って話そう。いいね？」

「……はい」

「いつもはミケのところに直行するレイモンド卿がここにやってきた。少々緊張した面持ちだったからすぐにわかったよ、重大な申し出をしてくるとね」

エルヴィンはそのときのレイの顔を思い出して軽く微笑んだ。

「そしてマヤにプロポーズをするつもりだ、マヤとの結婚を承諾してくれ…」

「だから…！」

順を追って話すというから、どんな大変な、長く入り組んだ話なのかと思いきや、単純ないきさつで疑問が湧く。

思わずマヤは、エルヴィンの言葉をさえぎって叫んでいた。

「……承諾したというのですか？ いくら団長だからって、私の気持ちとか意見とか全然聞きもしないでそんな…！」

マヤの声は金切り声に近い。

「誤解しないでもらいたいな。私が承諾したのは “条件” に対してだけなんだが」

「……条件？」

おうむ返しをする声が疑わしげに響く。

「レイモンド卿はこう言ったんだ、“マヤとの結婚を承諾してくれないか。マヤと結婚したあかつきには、バルネフェルト公爵家が毎年三兵団全体に寄付している寄付金の全額を、調査兵団に寄付すると約束しよう” と」

……公爵家の寄付金を全額？

その金額も想像もできないような大きな話に、おののく。