第27章 翔ぶ
「それは…、レイさんのプロポーズをOKしろということですか? 正しい決断とは兵団のために結婚しろと…。団長が条件を承諾されたというのは、要するにそういう意味ですよね?」
頭の中で渦巻いていた言葉をいざ口にしてみると、情けなくて胸が疼く。
「それもある意味正しい決断にはなり得るだろうな。我が調査兵団の万年資金不足は厳然たる事実だ。もしそれが恒久的に解消されるのならば、巨人の解明、討伐、人類の自由を勝ち取る未来への大きな足掛かりとなる。だが…」
エルヴィンの碧い目が、まっすぐにマヤをとらえる。
「人類の自由のために、一兵士の望まぬ犠牲を強いることは私の本意ではない。あくまでもマヤ、君の意思による決断にともなう成果でなければ無意味だ。だから私がレイモンド卿に示した承諾は、純然たる彼の提示した条件に対してのみ。彼は考え得るもっとも良い条件を出してきたからね。文句のつけようがない。もしもっと…、バルネフェルト家の地位と財力に見合わないような条件だったら、彼が物惜しみするような人物だったら…、却下していただろう」
「………」
これは、どう理解すれば良いのだろうか。
……結局私は、どうすればいいの?
ひとりの兵士の望まぬ犠牲なんて言いながら、団長はレイさんの出した条件があまりにも大きいから満足している… ということなのよね?
いくら私が嫌でも、兵団のことを考えたら…。
めずらしく眉間に深い皺を寄せて、考えこんでしまっているマヤの耳に入ってきたのはミケの優しい声。
「マヤ、難しく考える必要はない。レイモンド卿と結婚するかしないか、それだけを自分なりに考えて答えを出せばいい」
「でもそれでは寄付金が…」
「そのことは気にするな」
……そんなの無理…!
ミケはマヤがどう思っているのかわかっているといった表情で言い足した。
「俺も昼にレイモンド卿からの条件とやらをエルヴィンが涼しい顔をして承諾したときにはな、腹を立てたんだ。可愛い部下を売る気かとな…。だがエルヴィンの意向をよくよく聞いてみると、純粋に提示された条件だけに首を縦に振ったとわかった。あの時点ではマヤがプロポーズを受け入れるか断るかはわからないからな。結婚した場合に寄付をありがたく受け取っても、それは責められることではないと思う」