第13章 さやかな月の夜に
マヤはしばらくの間笑っているミケにあきれていたが、心の底から愉快そうにしている彼を見ていると頬をふくらませている自分が馬鹿馬鹿しくなってきた。
するとおかしなもので、笑いは伝染するらしい。
マヤも腹の底から笑いがこみ上げてくる。
「あはは… 分隊長、よくわからないけど私も笑ってます」
「だろ? リヴァイはわかりやすい!」
「いえ… そこは全然わからないですけど… でもなんだか分隊長見てたらおかしくって!」
「お前も変なやつだな」
ミケは一緒になって笑い始めたマヤを見て、この上もなく優しい表情を見せた。
マヤの笑いが落ち着くのを待って、ミケは声をかけた。
「マヤ、明日言おうと思っていたのだが…」
「はい? なんですか?」
マヤは笑いすぎて滲んだ目尻の涙を拭きながら返事をした。
「明日の会議で恐らく、次の壁外調査の日取りが決まる」
壁外調査という単語に、マヤの顔に緊張の色が走る。
「日取りの決まった夜は、いつも皆で飲みに行く」
「……はい」
話が見えてこず、マヤの声は少し揺れている。
「明日は、お前も連れていこうと思う」
「え?」
「壁外調査決定の夜の打ち上げは、副長クラスも全員来るんだ。今俺に副長はいないが、補佐を任しているお前が副長みたいなものだからな」
「……はい」
「そのときに訊けばいい」
「え?」
「隣に座ってしまえば、リヴァイも逃げられないだろう?」
マヤの眉は疑わしそうに寄せられた。
「隣って… そんな兵長の隣になんて座れないと思いますけど?」
「俺がなんとかするから、そこは心配ない」
「え! いや、いいですよ? 私、別に兵長の隣に座りたくないですから!」
ミケはニヤニヤしながら指摘する。
「顔が赤いぞ」
「赤くないですから! 私、兵長の隣は嫌ですからね?」
必死で訴えるマヤは、あ! と声を出すと急いでつけ加えた。
「私、明日はハンジさんの隣に座ります!」
そう宣言したマヤにミケはわかったとうなずき、安心させた。
マヤはやっと落ち着き、ゆっくりと残りの紅茶を楽しんだ。
ミケはマヤの様子を見てフッと笑うと、手許の新聞に目を落とした。