第13章 さやかな月の夜に
マヤの問いかけにミケはしばらく思案している風であったが、さらっと答えた言葉はあまりにも短かった。
「さぁな」
マヤはミケにもらった青地に白い鳥の羽ばたくマグカップを両手で包みながら、ふうっと息を吐く。
「分隊長も理由… 知らないんですか…」
その後黙って紅茶を飲んでいるマヤの様子をうかがっていたミケは、さりげなく訊いた。
「リヴァイが来ないと淋しいか?」
ミケのその言葉に、マヤはびくっと肩を震わせた。
「……そんなんじゃないですよ? ただ… なんか嫌じゃないですか。あんなに毎日来てたのに、急に来なくなったら…」
ミケの顔に向けたその瞳は潤んでいたが、ミケは気づかないふりをした。
「私… 何か… 怒らせちゃったのかな…?」
「マヤ、お前は何も悪くない。気に病むな」
「どうして? どうしてそんなこと… わかるんですか…」
「リヴァイは素直だって言っただろ?」
うなずくマヤに、ミケはつづけた。
「だから今度、リヴァイに会ったら訊いてみろ」
「……何を?」
「決まってるじゃないか、どうして来なくなったのか訊くのさ」
マヤは、その大きな目をさらに見開いた。
「そんなこと、訊けません!」
「でもそれが一番手っ取り早い。素直なやつだから、すぐに答えがわかるさ」
マヤは悲しそうにつぶやいた。
「分隊長… 無理です」
「何故」
「今朝… 廊下で会ったとき、兵長は私に気づくと向きを変えて行っちゃいました。私、避けられているんです」
マヤの話に、今度はミケが目を見開いた。
「だから… 訊きたくても逃げられちゃいます」
マヤは今朝や今しがたの兵長の様子を思い出して気持ちが沈んだが、ふっとミケが肩を震わせているのに気がついた。
「分隊長?」
よく見れば、ミケは声を殺して笑っていた。
「くっくっく…」
「何を笑ってるんですか! 笑い事じゃないです」
マヤが声を荒らげると、今度は堂々と笑い始めた。
「はははは、いや、すまない…。ははは!」
マヤは目を三角にした。
「笑うか謝るか、どっちかにしてください!」
「ははは、そうだな。いやリヴァイが、あまりにもわかりやすくて…」