第13章 さやかな月の夜に
……これは一体、どういうことなの!?
訳のわからない不安と苛立ちの混ざったような感情を胸に抱えながら、マヤが食器棚からミケと自分のマグカップを取り出したとき、シュンシュンとお湯が沸く音が聞こえてきた。
急いでポットの準備をして、沸いたお湯を注ぐ。
いつもどおりの手順で紅茶を淹れたマヤは、お盆に一式を乗せ執務室に向かう。
両手で持っていたお盆から片手を離し扉を開けようとしたとき、前触れもなく扉がひらくと中から出てきた人物とぶつかりそうになった。
「きゃっ!」
それはつい先ほどまで、散々給湯室でその動向にマヤが頭を悩ませていたリヴァイだった。
「兵長!」
思わずマヤが声を上げると、リヴァイが一瞬マヤをとらえた。
何日ぶりだろうか。
こうやってリヴァイの青灰色の瞳を覗くのは。
マヤの瞳に絡んでくる熱い視線のこの感覚。
懐かしさすら感じながら、マヤは声をかけた。
「……お茶を… 飲んでいかれませんか…?」
マヤを射抜くように見つめていたリヴァイの瞳の色は急速に冷め、ほとんど聞き取れない低い声とともにリヴァイは行ってしまった。
「……いや、いい」
隣の執務室にリヴァイの姿が消えたあとも、マヤはしばらく動けなかった。
……どうして…?
自分でも驚くほど胸がズキンと痛み、鼻の奥をツンと刺すような痛みが襲ってくる。
涙がこぼれ落ちそうになっていることに気づいたマヤは慌てて天井を見上げ、ぱちぱちと瞬きをする。そのままごくりと唾を飲みこめば、塩の味が喉に広がった。
「お待たせしました」
分隊長の執務室に入り、紅茶をポットからマグカップへ注ぐ。
黙って見ているミケの視線が痛くて、マヤは訊かれてもいないのに自分から話し始めた。
「……今、兵長とぶつかりそうになりました」
なぜかミケは何も言わない。
注ぎ終えた紅茶をミケの机に置きながら、精一杯笑ってみせた。
「すごい久しぶりですよね? 兵長がここに来るの」
紅茶を一口すすってから、ミケは答えた。
「そうだな」
「お茶を誘ったんですけど… 断られちゃいました」
「そうか」
「分隊長、どうして…、兵長はどうしてお茶の時間に来なくなっちゃったんでしょう?」