第13章 さやかな月の夜に
「そろそろ休憩しようか」
その日もミケのひとことで、小休止を取った。
「……お茶を淹れてきますね」
マヤはミケ分隊長と自分の二人しかいない執務室を淋しそうに見渡し、そっと扉を閉めた。
給湯室でやかんに火をかけると、食器棚を見上げる。
意識するつもりはないのに、二番目の棚にある白地につる草のレリーフのティーカップが目に入りため息をついた。
……リヴァイ兵長、どうして全く来なくなっちゃったんだろう…。
ペトラが泣いたあの夜の明くる日から、リヴァイはミケの執務室に顔を見せなくなった。
今日でちょうど一週間になる。
それまで毎日当たり前のようにマヤの淹れた紅茶を飲んでいたリヴァイの不在。マヤの心にさざ波が立つ。
正直なところペトラから兵長の恋愛観を聞かされた翌日は、どんな顔をして会えば良いかわからず、彼が執務室に現れなかったことにほっと胸を撫で下ろしたものだ。
しかしその次の日も、また次の日も姿を見せない兵長にマヤはもやもやと気持ちが晴れず、心はざわざわと落ち着かない。
リヴァイ兵長とはもともと接点がなく彼が休憩時間に来なければ、丸一日全く見かけないことすらある。
マヤがミケ分隊長の執務の補佐を手伝うようになり、休憩の時間に兵長が姿を見せるようになってから急速に縮んだ二人の距離は、あっけなく元どおりのなんの接点もない兵士長と一般兵士の関係に逆戻りした。
昨日は、廊下で向こうから歩いてくる兵長の姿を認めた。
すれ違いざまに “おはようございます” と頭を下げたが、兵長は全くこちらを見ることもせず過ぎ去った。
そして今朝などは同じく廊下で出会ったが、すれ違う前に兵長はきびすを返して行ってしまった。
……避けられている…? どうして…?
なんの接点もなかったころに戻っただけだと思うことができれば良いのだが、マヤは兵長の無表情の中にも確実にそこにある優しい表情を知ってしまっているのだ。
とてもではないが、何もなかったことになどできない。
おまけに兵長の恋愛観を知り少なからずショックを受けたマヤにとって避けたいのはこちらであり、避けられる覚えなどない。