第2章 芽生える
自分の執務室に戻ったリヴァイは、猛烈に苛立っていた。
手にした書類を乱暴に執務机の上に投げ椅子にドカッと座ったが、しばらく机の上を眉間に皺を寄せて眺めたのちに他の書類と同じ向きに揃え直した。
……チッ。
なぜ俺は… こんな別にどうでもいい書類の不備で、ミケのところに行ったんだ。
その書類は立体機動装置の使用許可申請書だったが、すでにその申請の日付は過ぎており、いってみれば “ただの紙屑” だった。
立体機動装置を自主訓練などで使用したい兵士は、自分の直属の分隊長にその日時と使用する兵士の名前… 一人ではなく何人かで訓練するときは全員の名前… を記入した使用許可申請書を提出する。
提出された分隊長はサインをして、兵士長に提出する。
兵士長は一か月ごとにまとめた申請書を団長に提出する流れになっているが、実質この書類は形骸化しており、リヴァイは廃止をエルヴィンに訴えようかと考えていた。
リヴァイは椅子の背もたれに体を預け軽く目をつぶり、この苛立ちの原因に思いを巡らせた。
……便所に行こうと部屋を出たら、隣のミケの執務室にヤツがちょうど入ろうとしていた。
ヤツは… ミケは… 誰か女兵士の背を押し、扉をバタンと閉めた。
女兵士の顔は見えなかったが、あの艶やかな髪の色は…。
マヤ・ウィンディッシュではないだろうか。
用を済まし、部屋に戻る。
机の上には忌々しい立体機動装置の使用許可申請書が小山を作っており、このクソ忙しいのに他の執務を妨害していた。
形骸化しているとはいえ、性格上無視することもできず順番に目を通す。
……全然 集中できない。
ハッと気づけば同じ書類を手にして、すでに目を通した箇所をぼんやり見ている。
隣の部屋が気になって仕方がない。
ミケが連れこんだ女は誰なんだ。
……いや… 執務室なんだ、ここは。私室じゃねぇ。
連れこむとかじゃねぇ、職務だろう。
しかしミケの野郎が女の背に添えた手の、妙なやわらかさが目に浮かぶ。
……あれは… 大事なものを壊れないように扱う手だ…。
クソッ、一体なんだってんだ!
手にした書類にミケのサインがないことに気づいた俺は、それを手に部屋を飛び出していた。