第12章 心づく
リヴァイ兵長に失恋したと、目の前で泣くペトラ。
今日は兵長の執務を初めて手伝うと張りきっていたのに、一体どうしたのだろう。
……告白したの…?
マヤは心の中の疑問を率直に口に出した。
「失恋したってどういうこと? 告白したの…?」
「ううん、してない」
ペトラはもう泣いてはいなかったが、目尻にはこぼれ落ちそうなくらいに雫が溜まっていた。
「……あのね…」
ぽつりぽつりとペトラは話し始めた。
執務を終えエルドとグンタも合流し、兵長の行きつけの店でご馳走になったこと。
あまりにも楽しく食事も美味しく、ついいつもより飲みすぎてしまい酔いつぶれたこと。
気づくとエルドの背中に負われており、兵長の恋愛観を聞いてしまったこと。
「……女なんて抱きたいときに抱ければいいんだって…」
マヤの目をまっすぐに見ながらそう訴えたペトラの顔は、色を失っていた。
「……そう…」
マヤはペトラの言葉に、少なからずショックを受けた。
なぜだか自分でもわからないが、兵長が女性をそういう風に見ていると考えたくはなかった。
「でね…」
ショックでぼんやりとしていたマヤの耳に、ペトラの声が聞こえてくる。
「エルドさんが私の気持ちに気づいてて…。兵長に、私が兵長のことを好きだって言ったの」
「え!?」
驚いて大きな声を出すマヤに、ペトラは泣き笑いの顔を向けた。
「そうしたら兵長はね、部下のひとりで… それ以上でもそれ以下でもないって…」
「うん…」
「くだらないこと言うなって…」
「うん…」
「くだらないって…」
ペトラはその言葉を繰り返すと、またうつむいて肩を震わせた。
「……ペトラ…」
ペトラの膝の上でぎゅっと握られた手を、そっと両手で包んだ。
声を震わせながら何度も何度もくだらないんだって…と繰り返されるたびにマヤは、うん… うん…と寄り添いつづけた。