第12章 心づく
その夜更けにマヤは、就寝前の愛読書 “恋と嘘の成れの果て” を夢中で読んでいた。
普段は翌朝の訓練にも差し支えるので数ページと決めているのだが、ちょうど物語が佳境に入りページをめくる手が止められない。
物語ではヒロインの料理人の娘アンと貴族の子息アベルが、親の反対を押しきって駆け落ちしようと屋敷を飛び出したのはいいが暴漢に遭い、刺されたアベルが生死をさまよっている。
挿絵のアンは相変わらずペトラに瓜二つで、重篤なアベルにすがって泣いている顔が大写しになっていた。
……本当に ペトラにそっくり…。
そう思いながらマヤがまじまじとその挿絵の泣き顔を眺めていると、扉がノックされた。
……こんな時間に誰?
かなり遅かったので不審に思いながら扉を開けると、たった今まで挿絵で見ていたものと同じ泣き顔が目の前に現れる。
「ペトラ? どうしたの!?」
「マヤ…」
ペトラはマヤの胸に飛びこんできた。
マヤはペトラを部屋に入れベッドに座らせると、隣に腰かけ彼女が落ち着くまでそっと背中に手を当て、なだめるように優しくとんとんと叩き始めた。
しゃくり上げていたペトラの肩の震えが、徐々に落ち着いてくる。
頃合いを見計らってペトラの背からゆっくり手を離すと、マヤはもう一度訊いた。
「……どうしたの?」
「……しちゃった…」
消え入るようなペトラの声。マヤは思わず訊き返す。
「ん? 何?」
「……失恋しちゃった…」
「……えっ…」
何をどう答えれば良いかわからず、マヤは言葉に詰まってしまった。
「私ね、兵長に失恋しちゃった」
今度ははっきりとした声で、ペトラは顔を上げた。