第27章 翔ぶ
これまでひとことも話していないギータが口をひらいた。
「そういえば馬の名前って変わったのもあったりするけど、どうやって決めてるっすか?」
ギータの疑問に対してタゾロは明確な答えを持っている訳ではなかったが、知っている範囲で答えた。
「さぁな…、牧場主じゃないかな? 調査兵団の馬は委託された牧場で繁殖と育成がおこなわれているんだ。兵団に来たときにはもう名前がある状態だから、命名したのは牧場の誰かさ」
「へぇ…。オレの馬はグレーノス、タゾロさんは… えっと…」
「ヒュロス」
「あっ、すみません… そうでした、ヒュロス。分隊長はヘラクレス、マヤさんはアルテミス。ジョニーはマカリアで、ダニエルはクテーシッポス…」
ギータはミケ班全員の馬の名前を声に出して、何かを考えている様子だ。
「タゾロさん…」
「なんだ?」
「今気づいたっすけど、馬の名前… ジョニーのマカリア以外みんな “ス” で終わってる!」
「……本当だな!」
「なんででしょう?」
「さぁ…。それこそ牧場主に訊かないと駄目だろうな」
「その調査兵団用の馬の牧場はどこにあるんですか?」
「……知らん」
タゾロとギータは馬の名前に首をひねり、その後方でジョニーとダニエルはそれぞれの馬がピンチのときに助けてくれるかどうかで言い争いをしている。
そんな状態でもしっかり歩いていたので、四人はじきに食堂に到着した。
一方、蹄洗場に残ってアルテミスとの別れを惜しんでいたマヤは、近くに誰もいないのをいいことに思いきりアルテミスに悩みを打ち明けていた。
「……もうね、前よりかは平気になってきてるんだ。兵長の執務室に行かないことも、夕食を一緒に食べないことも…」
ブルブルブル…。
マヤの優しく体を撫でてくれる手の気持ち良さと、声の響きにうっとりしながらアルテミスは声を出しているのだが、それがまるで相槌を打っているように聞こえる。