第12章 心づく
ミケがもう何杯目かわからない杯を傾けていると、背後から嗅ぎ慣れた香りが近づいてくる。
……来たか。
「一人か」
ミケは見ればわかるだろうと内心思いながら、あぁと短く答えた。
リヴァイは黙って隣に腰を下ろすと、強めの酒を注文した。
「……めずらしいな。大勢引き連れて」
「……たまにはな」
「フッ、そうか」
そのまま二人とも手許のグラスに目を落としたまま、口をつぐんだ。
どれくらいの時が流れただろうか。
リヴァイが三杯目の酒を飲み干すころ、ミケがリヴァイの方を初めて見た。
「リヴァイ」
黙ってミケに顔を向けたリヴァイと視線が絡む。
「……恋をしたことがあるか」
「……あ?」
眉間に皺を寄せるリヴァイを見て、ミケはほんの少し眉を下げながら同じ言葉を繰り返した。
「恋をしたことが… あるか」
リヴァイは手許のグラスに目を落とし束の間黙っていたが、トンとグラスを置くと低い声で答えた。
「……女なんて抱きたいときに抱ければ…それでいい」
ミケもグラスを見つめたまま、つぶやいた。
「俺も… そう思っていたのだがな…」
その答えに思わずリヴァイがミケの顔を見たとき、遠慮がちに声がかけられた。
「……兵長」
振り返ると、エルドが決まりが悪そうに立っていた。
「なんだ」
「オルオとペトラが酔いつぶれました」
テーブルの方に目をやれば、二人が突っ伏している。
……チッ…。
「邪魔したな」
ミケにひと声かけ、リヴァイはカウンターを去る。
エルドは “失礼します” とミケに頭を下げ、あとを追った。
ミケは黙って片手を上げリヴァイ班が出ていくのを見送ると、グラスの中で光る琥珀色の液体をグイっと飲み干した。
しばらく空のグラスをもてあそんでいたが、厨房から出てきた店主を目で呼んだ。
「お代わりをくれ」
「ミケの旦那、まだ飲むんで?」
「あぁ」
店主はやれやれといった態度で肩をすくめると、並々と酒を注いだ。