第27章 翔ぶ
ミケは冷静に執務机からマヤを見ていた。
……リヴァイが来ただけで、あんなにも幸せそうな顔をして。
一方リヴァイはいつもどおりの無表情で何を考えているかはわからないが、マヤに逢うために休憩に来たのに決まっている。
だからひとつ、冷やかしてやろうかと考えた。
“王都の酒場に連れていってやると約束したそうだな” とでも言ってみれば、リヴァイはどう答えるだろうか。間違いなく面白い状況になる。
いつ切り出そうか。
今はまずい。マヤがリヴァイに何か話しかけている。
ミケは二人の会話が途切れたときにでも冷やかそうと考えた。
「兵長…、オルオから聞きました。バルネフェルト公爵とお酒の勝負をしたって」
「あぁ…、そういうことになっているな…」
リヴァイの眉間の皺がわずかに深くなったように、ミケには思えた。
「勝ったんですよね? すごいです!」
「………」
「オルオは見ていただけで二日酔いになったらしいです。いくらお酒に強くないからって、そんな飲んでもいないのに二日酔いだなんて変ですよね?」
にこやかに笑いながらマヤはリヴァイに話しかけているが、どうもリヴァイの反応がおかしい。
ミケはリヴァイの態度がいつもと違うことにいち早く気づいて、観察をつづける。
……どうした、リヴァイのやつ。いつもならマヤの話ならなんだって、嬉しそうに相手をするくせに。
なのに今は、どことなく気分が悪そうだ。
「エルドさんとグンタさんが言っていました。兵長は “酒豪四天王“ だって。私も見たかったなぁ…、兵長がお酒で勝つところ」
「………」
リヴァイは相槌すら打たない。
いくらなんでも無視はひどいのではないかと、ミケが代わりに返事をした。
「“酒豪四天王“ とは聞き捨てならないな。エルドとグンタがそんなことを?」
「あっ、はい」
リヴァイに話しかけていたのに、ミケが自分の話に反応したのでマヤは少しだけ驚いた様子でミケの方に顔を向けた。
「分隊長と団長と兵長とハンジさんが、我が調査兵団の誇る “酒豪四天王“ だと教えてくれましたけど…、違うのですか?」