第27章 翔ぶ
「わかっているくせに…。意地悪ですよ、分隊長」
とぼけた声を出したミケを、マヤは軽く睨んでみせる。
「あはは、そう睨むなって。それで? 注文はせずに?」
笑いながら、ミケは話のつづきをうながした。
「……注文はせずに、いつか兵長に連れていってもらおうと思って、あらためてお願いしました…」
「あらためてお願い?」
「はい…。前に一度、連れていってやるとは言ってくれていたのですが…。今度はもっとはっきりと約束してくれました…」
マヤは照れくさそうに微笑んだ。
「……約束したか。それは楽しみだな?」
「はい…」
……約束したということは、いつの日か必ず二人で王都に行くのか…。
リヴァイのやつ、頑張ったじゃないか。
ミケがそんな風に思っているところへ、当の本人がタイミングよく現れた。
「……遅刻だぞ、リヴァイ」
「休憩に遅刻もクソもあるか」
ノックもせずに勝手に入ってきて、ドカッとソファに腰を下ろす。
「お疲れ様です」
「あぁ…」
ちらりとマヤを見てから、自分のために淹れてある紅茶に口をつけた。
その横顔にマヤは心からほっとする。
実は給湯室で湯を沸かしていたときからずっと、理由はわからないがリヴァイ兵長は休憩に来ないのではないかと心配していた。
……でも、来てくれた!
舞踏会のダンスのときに身を寄せ合い、言葉を… 約束を交わした。だがそれ以降まったく話ができていないのだ。いや、話どころか目すら合っていない。
連絡船でも結局カフェで逢えなかったし、下船して馬車に乗ったときも、兵舎に到着してからも不自然なほどに何もなかった。
……なんとなくだけど、避けられているのかもしれない。
そんな悪い方に考えて、リヴァイの分の紅茶を淹れながら、ほんの少し気分が沈んでいたマヤ。
それがミケの質問によって、リヴァイと約束をしたことをあらためて思い出して幸せな気分にひたっていたところへ、当のリヴァイがやってくるなんて。
避けられているかも… なんて勘違いしていた気分も消し飛んだ。
嬉しくて嬉しくて、心が躍り出してしまいそうだ。