第27章 翔ぶ
その翌日の午後の訓練の第二部の時間に、マヤはミケ分隊長の執務室にいた。
「どうだった、公爵家の舞踏会は?」
「そうですね…、楽しかったですよ」
休憩の紅茶をティーポットからこぽこぽと、ゆっくり淹れながらマヤは答える。
「舞踏会が始まる前にミュージアムを見学したのですが…、本当になんでもあって驚きました。ドレスや宝石はもちろん、食器や家具、楽器に武器…。あっ! 立体機動装置の試作品がありました」
「立体機動装置の試作品?」
ミケの小さな瞳が、砂色の前髪の奥で光る。
「ええ、発明家のアンヘル・アールトネンという人が幼馴染みの調査兵のために開発したそうです。私たちが使っているものと少し形状は違ったけど、ワイヤーの射出装置とかガスのボンベにブレード…、根本的には同じで試作品ながらもすでに完成品でした」
淹れ終えた紅茶をミケの前に置く。礼がわりに軽くうなずいたミケは、立体機動装置の試作品にかなりの興味を持ったらしく身を乗り出している。
「それは俺も見てみたいな…」
「あれは調査兵ならば絶対に見るべきものです。もしバルネフェルト公爵のお屋敷に行くことがあったら、お願いして見せてもらってください」
「お願い? ……しないといけないのか?」
「はい。立体機動装置の試作品は隠し部屋にあって、誰でも見られる訳ではないんです。特別に気に入った相手にだけ見せるらしくて…。でも調査兵だったら誰でもきっと、見せてほしいと頼めば見せてくれると思います。なにしろ調査兵の武器である、立体機動装置の試作品なのですから」
「……なるほど…」
マヤの淹れた紅茶を美味しそうにすすりながら、ミケは目を細めた。
……“特別に気に入った相手にだけ見せる”…。
紅茶の湯気に包まれて幸福そうな笑みを浮かべているマヤに、ちらりと視線を送ってミケはひとり大いに納得していた。
……そもそも今回の舞踏会への招待は招待状をひとめ見ただけで、その目的がわかるからな。
レイモンド卿の目的はマヤただ一人。ペトラとオルオはカモフラージュ、もしくはマヤを孤立させないための友人枠。そして目的に近づくために邪魔でしかないエルヴィンとリヴァイの同行は最初から否定。