第27章 翔ぶ
「トロスト区まであと3時間か…」
その3時間を… 来るかどうかもわからないリヴァイ兵長をカフェで一人待ちつづけることは、さすがのマヤも無理だと感じた。
マヤだってペトラと同じく、夜通しのおしゃべりのせいで寝不足なのだ。そんな体調のなか、3時間以上も一人でカフェの硬い椅子に座ってリヴァイを待ちつづけた。
……兵長と話したい。
公爵とお酒の勝負をしたと聞きました。勝ったそうですね? すごいです! 体調は大丈夫ですか?
……でも今でなくても訊けるもの。
兵舎に帰ってからでもいいわ。
そう踏ん切りをつけたマヤは、やっと重い腰を上げてカフェを出た。すやすやと眠るペトラのいる船室に戻ると、隣のベッドにもぐりこんだ。
そのころリヴァイは。
船室のベッドのシーツには、皺ひとつなかった。
乗船後すぐにこの船室に来てからずっと、船窓のそばに設置されている椅子に座って微動だにせず、ゆったりと流れていく景色を眺めている。
窓に映っているリヴァイの顔は、はたから見れば怖いくらいに険しいものだ。
リヴァイは乗船してから、いや… バルネフェルト公爵の屋敷を出る前から、いや… 昨夜の薔薇テラスでのマヤとレイの会話を聞いてしまってから…。
ある言葉に絶え間なく、苦しめられている。
リヴァイの胸を容赦なく刺すように攻撃してくるその言葉は、愛おしい女が放ったもの。
“兵長は上司ですから。それ以上でも以下でもありません”
最初は大きな岩石が頭の上から落ちてきて、肉体もろとも圧し潰してくるような感覚がした。
めまいすらして、立っていられない。
なぜこんな状況になったのかもわからずにいたとき、思いがけない猫の声で我に返り、その場を逃げるように立ち去った。