第27章 翔ぶ
連絡船に乗船してからほぼずっと、一人でいた。
馬車に乗ったときから、ひとことも発しないリヴァイ兵長は部屋に即こもってしまったし、最初だけ一緒にいたオルオも “飲んでないけど二日酔い” などという意味不明の理由で同じく部屋に消えた。
「オルオのやつ、一体なんなの!」
「バルネフェルト公爵と兵長の、お酒の勝負を最後まで見ていたかららしいよ? あんまり寝てないって」
「それは聞いたけどさ、オルオは見てただけで一滴も飲んでないんでしょ? なんでオルオが二日酔いなの、情けないわね!」
ペトラはオルオが軟弱すぎると怒っている。
「真夜中までやっていたらしいから、見ているだけでも大変なんじゃないかな?」
「確か兵長が勝ったって言ってたよね?」
「うん。公爵が降参したんだって」
「さすが兵長! だったら兵長も二日酔いなのかな?」
「どうだろうね…。顔色はいつもどおりだったけど」
マヤは馬車の中でも乗船してからも、いつもどおりの白く小さな顔で、これまたいつもどおりに眉間にわずかに皺が寄っていたリヴァイの顔を思い浮かべる。
「いつもしゃべる方じゃないけどさ、なんか機嫌悪そうだったよね…。勝負に勝ったのに嬉しくないのかな?」
ペトラにそう言われると、いつもどおりの顔色だったとはいえ、どこか不機嫌でそっけない態度だったとあらためて思う。
ペトラはその後 “寝不足で眠い~!” と部屋で寝てしまった。
ひとり残されたマヤは、リヴァイの様子が気になってカフェで紅茶を飲みつづけている。
……カフェで待っていたら、兵長が紅茶を飲みに部屋から出てくるんじゃないかな?
そう考えて待ちつづけ、飲んだ紅茶は三杯目、ついたため息は五回目。
「兵長、どうしちゃったのかな…」
王都を出港し、即座に船室にこもってしまったリヴァイ。その後すぐにオルオも、ほどなくしてペトラも眠るために船室に行ってしまった。
マヤだけがリヴァイに逢いたくて、話をしたくてカフェで待機しているが、その願いは叶えられず。
連絡船は途中にあるエミルハ区の船着場も過ぎてしまった。