第12章 心づく
扉を押し一歩中へ踏み入れると、店の入り口で受けた印象よりは意外と広い空間が待ち受けていた。
四人がけのテーブル席が三つあり、奥には七人ほどが座れそうなL字型のカウンターがありすでに幾人かの背中が見える。
「へぇ! ここが兵長の行きつけの店っすか!」
「素敵! 大人のお店って感じ!」
オルオとペトラが、大声ではしゃぐ。
店内を見渡していたエルドが、あっと何かに気づきリヴァイを振り返ると、すでにリヴァイも知っている様子だった。
「……兵長。あれ… ミケ分隊長ですよね?」
小声で告げるエルドに、リヴァイはうなずいた。
「あぁ… ヤツだな」
カウンターの一番隅の席に、背の高い大男がぽつんと一人で飲んでいる。その背は振り返ろうとはしないが知っている者からしたら、誰なのかは一目瞭然だった。
リヴァイはしばらくその大きな背を見ていたが、すっと視線を外し皆をテーブル席に座るようにうながした。
店主が慌てて椅子を一脚持って飛んできた。
「リヴァイ兵長! いらっしゃいませ!」
店主は椅子をなぜかオルオの前に置くと、揉み手をしながら訊いてきた。
「部下の方たちで?」
「あぁ。何か美味いものを腹いっぱい食わせてやってくれ」
「お任せください!」
座りながらリヴァイはつけ足した。
「酒も頼む」
思いがけない大量注文に浮き立って厨房に戻る店主を尻目に、それぞれが席に着いた。
「あの店主、なんで俺の前に椅子を置いたんだろ?」
「そりゃ、オルオが一番この中で余計な人に見えたんじゃない?」
「はぁ?」
「まぁまぁ」
オルオとペトラを取り成すと、エルドは隣に座っているリヴァイに頭を下げた。
「酒まで… ご馳走になります」
「あぁ…、好きなだけ飲め」
リヴァイはふとオルオとペトラに顔を向けた。
「……お前ら 飲めるんだろ?」
「はい!」「軽いものなら」
手まで挙げるオルオと、にっこり笑うペトラ。
「兵長のおごりかー! 飲むぞー!」
気勢を上げるグンタ。
エルドは、隣のリヴァイの様子に違和感を抱いていた。
かたくなにミケの存在を無視しているように見えたからだ。
……兵長?
じっと自分を訝しげに見るエルドに気づいたリヴァイは、真っ向から睨み返した。