第12章 心づく
「兵長の行きつけの店に連れてってもらえるなんて、頑張った甲斐があるってもんだ。な! ペトラ」
「うるさいわね。子供じゃないんだから黙って歩きなさいよ」
「何ぃ!? 折角 俺が盛り上げッア… ガリッ!」
「……言わんこっちゃない」
オルオとペトラの夫婦漫才みたいなやり取りを耳にしながら、リヴァイ班の一行は街へ向かっていた。
時は夕刻。
リヴァイは執務を一日手伝ったオルオとペトラをねぎらおうと、夕食をおごることに決めた。
調査兵団の兵士がよく行く食堂に連れていこうとしたが、オルオが子犬のような目をして兵長の行きつけの店に連れていってくださいと懇願してきた。
実際のところ妙な理由で執務の手伝いをさせる事態におちいった訳だが、オルオとペトラはよく働き、溜まっていた書類の山をすべて片づけてしまった。
これは嬉しい誤算だ。
オルオの願いくらい聞いてやろうではないか。
そう思い、行きつけの店に連れていってやろうと正門を出たあたりで、どこから聞きつけたのかエルドとグンタも合流しやがった。
……まぁ いい。
こいつらは普段から、よくやってくれている。
たまには俺の班全員で、街に繰り出すのも悪くねぇ。
……それに…。
リヴァイは、そのあとにつづく気持ちを形にするのを恐れた。
しかし意思に反して、その気持ちは心の中で大きくなる。
風になびく煌めく長い髪が脳裏に浮かぶ。
頭から追い払おうとしても、消せないその姿。
とうとう… その気持ちを受け入れた。
……それに今 一人でいると、きっと彼女のことで頭がいっぱいになってしまう。
皆といれば… 気が紛れる。
「兵長、どの道を行くんですか?」
気づけば、街の広場まで来ていた。
放射状に広がる道を前に、エルドが訊く。
「あぁ… こっちだ」
リヴァイは皆を引き連れ、一本の道を進む。
しばらくして、路地の奥にある目当ての店が見えてきた。
「荒馬と女?」
古びた看板を、グンタが読み上げた。
「なんか… すごい名前の店っすね」
オルオの声に、エルドがささやく。
「男のロマンだな」
すかさず聞きつけたペトラが口を挟む。
「どういうこと?」
「どちらも乗りこなしたいんだよ、男は」
「おい、ごちゃごちゃ言ってないで入るぞ」
リヴァイが重そうな木の扉を押すと、ギイと軋む音が響いた。