第27章 翔ぶ
「私さ、公爵になんでも好きなものを頼めって言われてチキンの丸焼きにしたじゃない?」
「うん」
「それで出てきたホロホロ鳥の丸焼き、美味しかったね!」
ペトラは高級食材のホロホロ鳥の丸焼きを独り占めした訳ではない。きちんとマヤとオルオにも切り分けた。
だからマヤも一緒に食べたホロホロ鳥のジューシーでかつ濃厚な味を思い出しながら。
「本当に美味しかったね。ところでホロホロ鳥って実物を見たことはないから、あんなに大きいとは思わなかったよ…」
実際に出てきたホロホロ鳥はニワトリの倍くらいの大きさだった。
「あれにはビックリしたね~! あれだけ大きいんだったらさ、兵団の食堂で出たらみんなが一切れずつ食べられるくらいあるんじゃないかな?」
「そうだね。でも大きさだけで言えばそうだけど、高級食材だから予算的に食堂では出せないだろうね…」
現実的なことを言うマヤ。
「もうマヤったら夢がないんだから! 私なんかマヤが耳飾りを捜しに行っているあいだに夢を見たよ」
「どんな?」
「もうおなかがいっぱいで食べられないのに、ホロホロ鳥が走って追いかけてくるんだ。美味しいし食べたいんだけど満腹で、もう食べられない~って嬉しい悲鳴だった」
「あはっ、変な夢だね」
「ご馳走の夢なら、いつでも大歓迎なんだけどな~!」
無邪気な笑顔を向けてくるペトラ。
「それからあの林檎酒! あれも最高に美味しかったね」
「ペトラが飲みすぎたやつね…」
「飲みすぎてない! 適度なほろ酔いだったのに、オルオとダンスのペアになったばっかりに…」
いつもどおりに文句の標的がオルオになってきた。
こうして時計の針が日付をまたいでから随分経っても、ペトラとマヤのおしゃべりが尽きることはなさそうだ。
二人の時間は “ザ・ブライド” で。
バルネフェルト公爵とリヴァイ、ナイル、オルオの時間はバルコニー貴賓席で。
舞踏会の夜はそれぞれに刻々と過ぎていった。