第27章 翔ぶ
「よりによってガチョウ! マヤが花嫁なんだから、私もお姫様とかお嬢様とか… なんでもいいけど人間の女の子がいいのにガチョウなんてあんまりじゃない?」
ペトラは自分の部屋の名が鳥だったことに、ぷんぷん怒っている。
「いいじゃない、私… ガチョウ好きだけど? 可愛いよね」
「どこがよ」
「つぶらな瞳だし、お尻をふりふりして歩くのよ? それに雪のガチョウなら、真っ白の子ってことよね? 想像しただけで可愛いよ!」
「可愛くない! ガチョウなんかガーガーとうるさく鳴くイメージしかない。……あっ!」
ペトラはあらたな見解を思いついて怒りを加速させる。
「もしかして、私がガーガーギャーギャー騒いでうるさいって意味? レイさん、ひどい!」
見当違いの言いがかりをつけるペトラの方が、よっぽどひどい。
「ペトラ、ガチョウは “くわっくわっ” だから」
「くわくわだろうが、ガーガーだろうが関係ない!」
この後しばらくペトラはブチ切れていたが、おだやかに反応するマヤに感化されて次第に落ち着いてきた。
「まぁいいわ。たまたまこの花嫁の部屋の隣がガチョウだっただけってことよね。で、レイさんはマヤを花嫁に泊めたかった、マヤの隣には私を泊める、だから私の部屋はガチョウってことで深い意味はない!」
「そうね、そうだと思うよ」
マヤは本当は “レイが自身を花嫁部屋に泊めたい” のところは否定したかったが、ペトラのガチョウ部屋の怒りを鎮めるには、ペトラの意見に同調するのが得策だと思った。
「……だったら不可抗力だね。許す! マヤ、なんか他に楽しい話ないの?」
「う~ん、そうね…」
せっかくペトラが話題を変えようとしているのに、とっさに何も出てこない。
苦しまぎれに出てきた言葉は。
「やっぱりレイさんの舞踏会は、すごいご馳走だったね!」
食べ物の話しか思いつかないなんて少々情けないとは思ったが、これがペトラにはもっとも効果的だった。
「ほんと! そうだね!」
途端に顔を輝かせて、さきほどの怒りはどこへやら。