第27章 翔ぶ
「……“ザ・ブライド”…」
マヤはペトラのように叫びはしなかったが、それでも大きな琥珀色の目を見開いて呆然とした様子でつぶやいた。
「これって “花嫁” だよね、マヤ?」
「うん…。意味はそうだけど、でも白い薔薇の品種の名前だから…」
「花嫁なんて名前の部屋にわざわざマヤを泊めるなんて、なんか意味深じゃない!?」
「でもレイさんは私が泊まる部屋を知らないって言ってたから、意味なんかないと思うよ。たまたまじゃないかな…?」
「え~!」
ペトラの目は実に疑い深く、ランプの光をギラギラと反射している。
「だってプロポーズしてるんだよ、レイさん。部屋を知らないなんて、きっと嘘だよ。プロポーズした相手を花嫁なんて名前の部屋に閉じこめる…、なんかやらし~!」
「えぇぇ、そうかな…?」
「そうだよ! 私の部屋は、なんていう名だろ?」
ペトラは自身があてがわれている隣の部屋の前まで行って、さきほどと同じように背伸びをした。
「………」
黙っている。
「……ペトラ、どうしたの?」
部屋のネームプレートを読んだのに、ひとことも発しないペトラを変に思って声をかけると。
ぷるぷると肩を震わせてひとこと。
「マヤ、とりあえず部屋に戻るよ!」
「う、うん」
なんだかペトラの勢いに押されて、マヤはペトラの部屋のネームプレートを目にすることなく自身の部屋 “ザ・ブライド” に戻った。
再びベッドの上。
エクストラキングサイズの天蓋付きベッドだ。
優雅なお姫様御用達のベッドの上にごろんと寝転がったペトラは、ぷりぷりと怒っている。
「ねぇ、一体どうしたのよ」
「どうしたもこうしたもないわよ! なんでマヤが花嫁で、私がガチョウなのよ!」
「……ガチョウ?」
「そうよ~! 私の部屋の名前 “スノー・グース”、雪のガチョウだった!」