第27章 翔ぶ
「でしょう? でね、全部のお部屋に名前があるらしくてこのあいだ泊めてもらったお部屋は “エーデルワイス” というのよ」
「へぇ…」
「それで薔薇園にちょうどエーデルワイスが咲いていて、あれがそうだよって教えてもらったんだ。それが見事な薔薇のアーチでね。白く気高くたくさん咲き誇っていて… 綺麗だった」
「そうなんだ。じゃあさ、今日のこの部屋にも名前があるの?」
「もちろんよ!」
「なんて言うの?」
「………」
マヤは答えられなかった。
「ごめん、知らない。レイさんに訊いたけど、どこに泊まるか知らないからわからないって言われたの」
「そうなんだ」
ペトラはきょろきょろと部屋を見渡すと、
「どこかに部屋の名前って書いてあるのかな?」
寝転がっていたベッドから起き上がった。
「……探すの?」
「うん、なんか気になるじゃん? 名前があるなら知っておきたいよ。見つけたら隣の私の部屋の名前も調べるよ」
口を動かしながら、テーブルの上やら飾り棚の引き出しを開けたり閉めたりして何か部屋名の手がかりがないかを探している。
それをじっと見つめていたマヤは、ふっと思い当たった。
「ねぇ、お部屋の名前なら… 表札みたいに扉に書いてあるんじゃないかな?」
ペトラの手が止まる。
「あぁぁ! それだ! 外だよ!」
言うが早いかもう扉を開けている。マヤも慌てて後を追った。
廊下に出て扉を見る。
重厚感のある木の扉。無垢のチーク材のそれは、よく磨かれて光っている。
一見ネームプレートのようなものは見当たらなかったが、マヤがランプを指さした。
「あれじゃない?」
扉のそばにランプが灯っているのだが、そのランプの下に小さなネームプレートが。
それはかなり小さく、また上で明々と輝くランプの光のせいで意識して見ないと気づきにくいものだった。
「あんなとこに! だから前に泊まったときも今日も全然気づかなかったんだ」
そう言いながらペトラは背伸びをして、ネームプレートを読んだ。
「ええっと…、“ザ・ブライド”…。“ザ・ブライド” !?」
廊下に大きな声が響き渡った。