第27章 翔ぶ
「忘れないでよ、今もこんなに白薔薇に囲まれているのに」
マヤはそう言って笑いながら、ベッドのシーツにさりげなく織りこまれている薔薇の模様を指さした。
「白いシーツに薔薇…。ほんとだね。そういえばミュージアムでもこの屋敷でも紋章の白薔薇だらけだったわ。舞踏会が始まって、ついついご馳走ばかりに目が行って完全に忘れてた!」
ぺろっと舌を出すペトラ。
その顔が可愛くて、マヤは笑ってしまう。
「ふふ、ペトラったら!」
「でもレイさんには悪いけど、やっぱり薔薇は赤が一番だと思うなぁ」
「そんなに赤い薔薇が好きなら、アトラスさんの薔薇園を見に行けばいいんじゃない?」
「アトラスさんって、あのアトラスさん? レイさんと仲のいい…?」
ペトラはどこかラドクリフ分隊長と似ている、体が大きくて人の良さそうなアトラスを思い出した。
「そう、そのアトラスさん。アトラスさんのところのロンダルギア侯爵家の紋章は赤い薔薇なんだって」
「そうなんだ」
「うん、色が違うだけで同じ薔薇のデザインらしいよ。なんでもバルネフェルト公爵家とロンダルギア侯爵家は親密で、家紋もお揃いなんだって」
「へぇ! だからあの二人仲良しなんだ」
「かもね。……それでね、家紋にしたがってレイさんのお屋敷は装飾品とかなんでも白薔薇で統一してるんだって。だから薔薇園も白い薔薇なの。そして赤薔薇が家紋のアトラスさんの薔薇園は、赤い薔薇だけなんだって」
「なるほどね~! アトラスさんの赤薔薇園、見たい!」
「見に行けば…」
はっとした表情をして、マヤは黙った。
……あっ、確か公開しているのは貴族の人にだけだったし、時期も5~6月って言ってたから、もう過ぎてる…。
「ん? どうした?」
「あっ、ごめん。アトラスさんの薔薇園は貴族じゃないと見れないし、公開時期ももう過ぎてた…。それにそうじゃなかったとしても、そんな簡単に見に行けるところでもなかったね」
両手を合わせて謝ったマヤに対して、ペトラは笑い飛ばした。
「なんだ、そんなこと。もし話す機会があったら駄目元で言ってみるよ。でもどうせ無理だろうし、そのときはラドクリフ分隊長に赤い薔薇を植えてほしいと頼んでみれば済むんじゃない?」