第27章 翔ぶ
ペトラのその笑顔がおかしくて、つられて笑った。
「ふふ、本当だね! “兵長派” があるなんてレイさんが知ったら、驚くだろうなぁ…」
「それにマヤがその兵長派の代表だなんて知ったら、卒倒しちゃうかもね!」
「ちょっとペトラ! 私は代表じゃないから!」
慌てて否定すれば、ペトラがいかにも悪い顔をして笑っている。
「……もう、ペトラったら!」
「あはは」
ひとしきり笑ったあとに、ペトラは質問してきた。
「ねぇねぇ、プロポーズしてきたくらいだもん。手くらい握ってきた?」
「手?」
「うん。ひざまずいて手を握ってきたとか、抱きしめてきたとかそういうの」
「そんなのないない!」
「な~んだ、レイさんだってクソ真面目じゃん…」
つまらなさそうにペトラはつぶやく。
「……ん? なんか言った?」
「ううん、なんでもない」
ペトラの言った “抱きしめてきた” でマヤは思い出す。
「抱きしめて… というか普通にダンスはしたよ? そのときに肩はちょっと抱き寄せられたけど」
「あぁ、ダンスしたんだ?」
「うん。私が下手すぎてすぐにやめちゃったけどね…」
ふうっとマヤはため息をつく。ステップもまともにできずにつまずいてしまったことを思い出したからだ。
だがそれと同時に踊っていたときの情景もよみがえってきて、顔を輝かせた。
「あぁ、そうだ。そのレイさんとダンスをしたテラスね、薔薇園が見渡せたんだけど、その薔薇がね… 全部白なの!」
「へぇ!」
「すごかったよ、ずっと奥の方まで白い薔薇がいっぱいで。夜なのに月の光の射す白い薔薇園は、そこだけ明るく見えたくらい。あんなにたくさんの白い薔薇、初めて見たよ」
「へぇ!」
二度もペトラは感嘆の声を出すと、首をかしげた。
「でも私、薔薇といえば一番に赤い薔薇が浮かぶんだけどさ。赤い薔薇は咲いてないの?」
「うん」
「一輪も?」
「うん、一輪も。だって白い薔薇だけの薔薇園だから」
「そっか…。でもなんで白? 薔薇はやっぱ赤じゃない?」
薔薇は赤だと譲らないペトラ。
「まぁペトラの言いたいこともわかるけど、白い薔薇も綺麗だよ? それになんで白なのかってのは… ほら、バルネフェルト家の家紋が白い薔薇だからよ」
「あっ、そうか! そのことをすっかり忘れていたわ」